おひつじ座
苦しみと生きがい
ぎらぎら
今週のおひつじ座の星回りは、江戸川乱歩『孤島の鬼』の「人外」の恋のごとし。あるいは、自己であること、人間であることを超えていこうとすること。
江戸川乱歩が三十代半ばで書いた初の連載長編『孤島の鬼』は、語り手である「私」が体験した「人外境」の悪夢が一人称でえんえんと語られていくのですが、話が進むにつれて「私」は二つの恋のあいだに渦巻かれていきます。
一つは、性欲倒錯者にして解剖学者である風変りな友人・諸戸から寄せられる同性愛的恋であり、もう一つが化け物の群れが棲む孤島で出会った畸形の少女(腰のところで粗野な少年と癒着した)への怪物的な恋。自分は人間というより獣なのだという少女は語ります。
あるとき、ご飯のおかずに、知らぬおさかながついておりましたので、あとで助八さんにおさかなの名をききましたら、タコといいました。タコというのは、どんなかたちですかと尋ねますと、足の八つあるいやなかたちの魚だといいました。そうすると、わたしは人間よりもタコに似ているのだとおもいました。わたしは手足が八つあります。タコの頭はいくつあるか知りませんが、わたしは頭のふたつあるタコのようなものです。
「私」はそんな両性具有的な不定形の怪物に想いを寄せる一方で、「君は浅間しいと思うだろうね。僕は人種が違っているのだ。すべての意味で異人種なのだ」と一人ふるえ上がる孤独な友人から想いを寄せられ、両者のあいだで引き裂かれていく。だが、そもそもそれら二つは「私」自身の秘められた性(サガ)と無関係であっただろうか。
27日におひつじ座から数えて「変容」を意味する8番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、ある種の自己解放を通して常識の定める一線を超えていくべし。
なめらかであるよりも
ほんとうに生きている、という感じをもつためには、生の流れはあまりになめらかであるよりはそこに多少の抵抗感が必要であった。したがって、生きるのに努力を要する時間、生きるのが苦しい時間のほうがかえって生存充実感を強めることが少なくない
ハンセン病患者との出逢いから親の反対を押しきって精神科医となった神谷恵美子は『生きがいについて』の中でそう書いていました。彼女は病いに苦しむ人の傍らでどうしたら人は生きる希望を見出しうるか、「生きがい」を持てるのかを洞察し続ける中、何かを求めて苦労する行為こそが生きがいをもたらしてくれるのだと看破したのです。
その意味で、二つの恋のあいだで引き裂かれた『孤島の鬼』の「私」の味わった苦しみもまた、真に生きがいとともに生きるために必要な通過儀礼だったのかも知れません。
今週のおひつじ座もまた、なんとなく引き寄せられてしまう苦しみと改めて向かい合っていくことがテーマとなっているのだと言えるでしょう。
今週のキーワード
わたしは頭のふたつあるタコのようなものです。