おひつじ座
井戸掘り人として
村上春樹と河合隼雄
今週のおひつじ座の星回りは、村上春樹のいう「コミットメント」のごとし。あるいは、誰かとのあいだで「井戸」を掘っていこうとすること。
『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』のなかで、村上春樹は自身にとって転換点となった『ねじまき鳥クロクニル』について、「コミットメント」とか「取り戻す」いうことが関係しているのだと語っています。
「コミットメントというのは何かというと、人と人との関わり合いだと思うのだけれど、これまでにあるような、「あなたの言っていることはわかるわかる、じゃ、手をつなごう」というのではなくて、「井戸」を掘って掘って掘っていくと、そこでまったくつながるはずのない壁を越えてつながる、というコミットメントのありように、僕は惹かれたのだと思うのです。」
この本の別の箇所で、河合隼雄は「昔の夫婦というのは、ただいろいろなことを協力してやって、それが終わって死んでいって、それはそれでめでたしだった」けれど、「いまは協力だけではなくて、理解したいということになってきている」と述べた上で、「理解しようと想ったら、井戸掘りするしかしょうがないですね」と言っています。
たぶん、そういう「井戸掘り」というのは、「よし、掘るぞ」と思って能動的に掘っていくというより、気付いたら掘り始めていて「あれ、このまま掘っていったらどうなるんだろう」とか、不安になったり、怖気づいたり、どこか嫌になってしまったりしているものなのではないでしょうか。大抵の人はそこで投げ出しますし、それはその人が悪い訳ではない。けれど、まれにそのまま掘り続けてしまうという事態がある。
29日におひつじ座から数えて「他者への開け」を意味する7番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな井戸掘りにいつの間にか精を出している自分に気付いて、不思議な気分になっていくかも知れません。
井の中の蛙空の深さを知る
どこから見ても完璧で、見事な調和=美しさを体現した人間などこの世にはいませんし、同様に何の不満も苦痛もない関わりやコミットメントというものは存在しないでしょう。
それでも多くの人は、みずからの欠損や不格好、あるいは生傷をできるだけ相手の目から隠そうとします。それが愛されるための唯一の方程式であり解であると言わんばかりに。
しかし、私たちが何か大事なことに気がつく契機というのは、大抵は小さなすき間や亀裂から生じた、フラジャイルな情報が積み重なった結果、自分の想像力を超えたものが生じてきたものであり、井戸を掘り続ける=コミットメントするというのはそれを受け止め、なんとかくぐり抜けていくということに他なりません。
おそらく、河合隼雄に会いに行った時の村上春樹もそうした感覚に近かったのではないでしょうか。
その意味で今週のおひつじ座もまた、「完璧さ」や「調和」への強化・拡張という仕方とは別のスタイルで現実に突き当たり、それを乗り越えていくことがテーマとなっているのだとも言えそうです。
今週のキーワード
大海を知ることだけが成功にあらず