おひつじ座
くびきを解くべく
旅人オーウェルの垣間見たもの
今週のおひつじ座は、ジョージ・オーウェルの『パリ・ロンドン放浪記』のごとし。あるいは、手と足を通して自分なりの真実を見出していこうとするような星回り。
原著は1933年刊行で、著者のデビュー作。1年ほど戦間期のパリの貧民街やロンドンで浮浪者として過ごした記録なのですが、その中で彼は高級ホテルの皿洗いに身をやつしながら丹念に人間観察を続け、社会の底辺に置かれ虐げられた人間の心理状態を探っていくのです。
その結果、著者は「弱い人間ほど支配者に隷従する」と見破っていく。立場の弱い人間ほど、従順であることにプライドを見出していくのだ、と。このあたりは16世紀フランスの夭逝した天才ラ・ボエシが「臆病と呼ばれるにも値せず、それにふさわしい名が見当たらない悪徳」と呼んだものと通じています。
つまり、圧政とか暴力的な支配というものは、支配者=加害者の悪辣さや非道さや、そのおこぼれにあずかる取り巻き連中によってだけでなく、支配される側の「自主的隷従」に支えられて初めて成立していくのだという話で、これは現代の日本社会においても会社や学校、家庭などで今なお広く見出される現実なのではないでしょうか。
31日におひつじ座から数えて「固定観念」を意味する2番目のおうし座にて、「意識の冴え」を象徴する天王星とともに満月を迎えていく今週のあなたもまた、ふだんなら見過ごしがちな抑圧や足かせに対していつも以上に反発を覚えやすかったり、それをひっくり返したくなっていくはず。
流れゆく水にならう
古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスが遺した「誰も同じ川に二度入ることはできない」という言葉のように、川の水は常に流れており、同じように見えても必ずそこには昨日とは違う水が流れている訳ですが、そうした言われてみれば当たり前の感覚を取り戻すために、人は旅に出るのかも知れません。
そして今のおひつじ座の人たちには、どこかでそんな旅人の風情が醸し出されているように感じます。それはものごとをコンクリートで固め、現実のたえず揺れ動いて捉えどころのない側面に蓋をして封じてしまうような意識やライフスタイルへの違和感が、心の奥底からぶくぶくと湧き続けているからなのかも知れません。
現実の奥底に流れる「水の動き」に同調し、自分のいのちを担保にして風景と向かい合う。「舟」の底から感じられる自然や死のなまなましい音に耳をかたむけながら、ときに言葉を紡ぎ、櫂(かい)を漕いで舟を進めていく。そんな漂泊の旅人の精神に、自然と吸い寄せられていくでしょう。
今週のキーワード
上善如水(じょうぜんみずのごとし)