おひつじ座
催眠と誘導
‟優しい森”のイメージ
今週のおひつじ座は、「君きつと照葉樹林春の雨」(田中亜美)という句のごとし。あるいは、心穏やかにしてくれる何か誰かにそっと触れていくような星回り。
春の雨は「暖雨」とも言う。ともすると陰鬱なイメージがつきまといがちな雨の中でも、この季語には春ならではの明るく暖かな雰囲気がある。
掲句では、たっぷりと降る春の雨に濡れつつも、つやつやの葉っぱで雨を受け止めている想像上の常緑樹の姿に、目の前の「君」を重ねている。ときに感情的になる私に対し、そんな「君」は身近な人物というより、どこか宗教画に描かれた聖者のように、柔らかな光でこちらを酔わせてくる。
ただもしかしたらそれは、作者のみずみずしい心の動きが周囲の世界に魔法をかけた結果に過ぎないのかも知れないし、それは春という季節ならではの光景でもあるはず。
10日におひつじ座から数えて「自己暗示」を意味する6番目のサインであるおとめ座で満月を迎え、同じタイミングで順行へと戻っていく今週のあなたもまた、心のバランスを取るために必要な“動き”をそっと取り入れていきたいところ。
行方の確認
現在の渋谷ヒカリエがある場所で、かつて最晩年の星の民俗学者・野尻抱影は「星に感じる畏怖」と題する講演を行い、その締めくくりに自分が死んだらオリオン座の右はじ=亡き妻が眠る宇宙霊園に葬られたいと語っていたという。ただし、これは野尻お得意の冗談でもあり、その頃よく口にしていた“ネタ”だった。
「オリオンのね、長方形の四つ角のところ、…そこにねえ、神話に出るアマゾン女兵が……得意の盾を持って槍を持って立っている。これがぼくの“オリオン霊園”の番人ですよ。」(1977年2月5日放送NHKテレビの対談より)
そして本当に、放送された年の秋の日の早暁に野尻は逝った。正確には、1977年10月30日午前2時45分頃。弟子が確認すると、ちょうどオリオン座が南中し、子午線上にはオリオン座γ星ベラトリックス(ラテン語で「女戦士」の意味)が昇っていたという。自己暗示ともとれた野尻は、たしかに成功していたのだ。
今週のおひつじ座は、自分の未来について想いを馳せるにあたり、陳腐で使い古された方式にただ任せるのではなく、大切なもの、愛すべきものへの洗練された崇敬を示すことができるかどうかが、ひとつの焦点となっていくだろう。
今週のキーワード
自分に魔法をかける