おひつじ座
時は金なり
こころ弾む感覚
今週のおひつじ座は、「春や鳴る夜汽車シリングシリングと」(小津夜景)という句のごとし。あるいは、豊かな時間感覚のふくらみを経験していくような星回り。
春の夜汽車(夜行列車)と言えば、故郷からまだ見ぬ処女地への旅立ちを思い起こされる。まだどこかで慣れ親しんだ生活に後ろ髪を引かれつつも、新天地での生活への期待や憧れはもはや抑えきれない。
「春宵一刻値千金」という古い言葉もあるが、おひつじ座にとって今週はまさに特別な意味を持っていくだろう。
そして掲句にもお金が出てくる。「シリング」は1971年以前のイギリスで使われていた通貨単位であり、1ポンド=20シリングなので現在のレートに換算すると、1シリングは7~8円くらい。
わずかな小銭をポケットに入れて、軽やかに夜汽車へ飛び乗っていく光景が自然と浮かんでくる。彼/彼女はお金には換えられない、厚みと弾力のある心はずむような時間をもう既に生きつつあるのだ。
2月24日(月)におひつじ座から数えて「古い自我の消失」を意味するひとつ後ろのうお座で新月を迎えていく今週は、そんなひとつのサイクルの終わりと新しいサイクルの始まりの端境期に立たされていく。
汽笛の鳴る時
人生というのは、一体いつ始まるのか?
これは素朴に見えて、とても難しい問いだ。生まれたときではないことは確かだけれど、本気の恋をしたときのような気もするし、書物のなかに自分自身を発見して何かが目覚めた時のような気もする。
あるいは、大事な何かを決定的に喪失してしまった時に人生は始まるのかも知れない。
いずれにせよ、「わたしの夢」みたいな作文を書かされたり、高額すぎる料金を払って‟コーチング”を受けた時でないことだけは確かだろう。だって、叙事詩ってそんなものじゃないだろう。それが喪失時であれ、恋愛中であれ、ぶっきらぼうに転がっていたマンモスの骨を拾い上げるようにして始まるものだ。
「いくか?」「ああ、いこう。」
はるかかなたで汽笛が鳴っている。そんな幻聴さえ聞こえてきそうな今週なり。
今週のキーワード
春宵一刻値千金