おひつじ座
華と悲
いのちの燃焼とは何か
今週のおひつじ座は、「年々にわが悲しみは深くしていよよ華やぐ命なりけり」(岡本かの子)という歌のごとし。あるいは、どうしても諦めきれない執着をこそ花咲かせていこうとするような星回り。
この歌は、小説家でもあった作者の『老妓抄』という老いた女の執着心を巧みに描いた作品で、主人公によって最後に詠まれた歌。
“老妓(ろうぎ)”と呼ばれる既に引退した裕福な元芸者「小その」は、自分の人生の不完全燃焼さ、「パッション」の起こらなさに不満を感じていました。
ところが、あるきっかけで柚木(ゆき)という金儲けの野望を持つ若き発明家志望の青年と知り合い、その野望に魅力を感じ、実現を応援してみようと面倒を見ることになる。その真意は次の通り。
「仕事であれ、男女の間柄であれ、混り気のない没頭した一途いちずな姿を見たいと思う。私はそういうものを身近に見て、素直に死にたいと思う。」
ところが、半年ほど経つと柚木は老妓に囲われた生活の中で次第に堕落していき、すっかり覇気が失せてしまう。そしてそんな自分に嫌気が差して逃げ出し、その度に連れ戻されるということが繰り返されていく。
そして、いつも冷静な老妓が意外なほどにうろたえを見せる描写の後に、冒頭の歌が添えられるのです。
13日(月)から14日(火)にかけて、おひつじ座から数えて「到達できる最高の位置」を意味する10番目のやぎ座で太陽と土星と冥王星が正確に邂逅していく今週のあなたもまた、わが「いのち」は華やいでいるか、磨かれているか。
気が付けば、いつの間にか長く伸びてしまった寿命に、どうしてメリハリを付ければいいのか、という問いに改めて向き合っていくことになりそうです。
「悲」はどこにあるか
「禅」を世界に広めた鈴木大拙は、かつて宗教の役割を「力の争いによる人間全滅の悲運」から人類を救うことにあるとし、知識や技術(智)の世界の外に慈悲の世界があることを忘れてしまった現代人を批判しました。
ではその「慈悲」とは、どこか遠いところからやってくる神のもたらす奇跡なのかと言うと、大拙はそうではないのだと言います。
「智は悲によつてその力をもつのだといふことに気が付かなくてはならぬ。本当の自由はここから生まれて出る。……少し考へてみて、今日の世界に悲―大悲―があるかどうか、見て欲しいものである。お互ひに猜疑の雲につつまれてゐては、明るい光明が見られぬにきまつてゐるではないか」
そして先の作品に引き付けて言えば、「悲」とはおそらく老妓の心のなかに眠っていた執着が花開いた先にこそあるものなのでしょう。そういう道を、今あなたもまた歩みつつあるのだと思います。
今週のキーワード
天は自ら助くる者を助く