おひつじ座
背筋を伸ばして
峠の魔物
今週のおひつじ座は、「旅にて今日八十八夜と言われけり」(及川貞)という句のごとし。あるいは、忘れるべきこととそうでないことの区別をつけていくような星回り。
「八十八夜」とは立春から数えて八十八日目のことで、現在の暦でいう5月2日あたり。「八十八夜の別れ霜」などとも言われ、この時期になってもまだ稲作にとって大敵の霜が降りることがあるそうで、つまりこの日を無事過ぎれば安定した実りの夏がやってくるという大切な境い目であり、「八十八」という数字も縁起をかついでのものだろう。
ただ掲句においては「言われけり」という結び方がどうしても目をひく。これは今まで気付かずにいたことに気付かされたという、強い表現であり、ハッとしているのだ。もしかしたら旅先の浮かれた気分や、すっかり暖かくなって緩んでいた気持ちの油断を突かれ、身を引き締めようとしているのかも知れない。
5月5日の新月と同じタイミングで、おひつじ座の守護星である火星は木星と正確に180度の角度を取っていく。木星は「拡大と発展」を司るラッキースターとも言われるが、浪費や強欲、享楽や放蕩など、自我肥大のもたらす禍をも表わし、この配置ではそうした木星のネガティブ面も含めて最も強力に火星に作用し、引き出されていく。
その意味で、今週は鉢巻きを締め直すくらいのつもりで、改めて自分を律したり、初心に返って過ごしていくべし。
ないがしろにしてきたものたち
物事を支えている背景というものはふだん控えめで、自己主張することは余りありません。
だからこそ私たちは、いつの間にか大音量で喧伝されている世間の声に応えようとし、遠い彼方の何かのために戦い、道すがら咲いている可憐なスミレの花を踏み潰し、そのことにさえ気づかずに無視したまま生きてしまうのではないでしょうか。
今週は、ある意味で、そうした普段わたしたちの実生活を支えている背景に気付き、その働きと一体化していくことで、これまで自分がないがしろにしてきた半身を取り戻していこうとしているのだとも言えます。
草葉の陰に目をこらし、露の世を楽しむくらいのつもりでいるといいかも知れません。
今週のキーワード
図と地の反転