おひつじ座
峠をこえる
未練を振り切る
今週のおひつじ座は、「有耶無耶の関ふりむけば汝と我」(安井浩司)という句のごとし。あるいは、もうそこから立ち去るべき関係、場所、記憶から立ち去っていくような星回り。
ふりむくことによって反転する景色は、自我がまだ不確かで「有耶無耶」だった、記憶の彼方。
そして「汝」とは「我」と同じだけの内実を持つ者として関わる他者であり、「我」は「汝」との関係に巻き込まれ、引き裂かれていくことで初めて己を成立させていくことができる。
作者の俳句にはどこか未生以前の懐かしさを感じさせるものが多いのですが、掲句にはそうしたところからもう大分遠いところまで来てしまったのだという淋しさのようなものも同時に感じられます。
そんな“感じ”にどこか呼応するかのように、今週はあなたがまだ未熟だった頃に癒着することで生き延びられたような関係や居場所、すなわち懐かしい記憶を振り切って、そこから離れていこうとするような動きが出てくるかもしれません。
扉を開ける
オルダス・ハクスリーの『知覚の扉』の巻頭には、神秘主義詩人ウィリアム・ブレイクの詩から次のような一節が引用されています。
「知覚の扉澄みたれば、
人の眼にものみなすべて永遠の実相を顕わさん」
同書は幻覚剤メスカリンを使用した際の意識変容の体験記なのですが、メスカリンはもともとペヨーテというサボテンの一種から取れる成分で、アメリカ先住民たちにとって特別な価値があり、まさに意識を未知の次元へと招く「知覚の扉」に他なりませんでした。
ただそうした古き共同体には、見知った世界を抜け出したいと急ぎ焦る若者に対して「お前はまだその準備ができていない」と釘を刺してくれる長老格が必ずいたものです。
しかし現代社会では、そうした関係が自然に生じることは稀であり、ほとんど寓話となってしまっています。
だからこそ、自分自身で準備の出来不出来について確認していかなければならないのです。「本当に扉を開けるのか?」と自分の心にノックしてみなければならない。
その意味で、今週は自分がどこまで新しい世界に開かれているのか、改めて自分の手で確かめていくことになるでしょう。
今週のキーワード
オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』