おひつじ座
勢いよく手を振り下ろす
歌おこるとき
今週のおひつじ座は、「熱燗や国滅ぶとき歌おこる」(藤井元基)という句のごとし。すなわち、どうしようもなく自分自身であるところの器にはまり切って、力強く振り切れていくような星回り。
得てして人は、自分自身をあてはめるのに相応しい器を何度も見誤っていくものです。
現代のような終わりなき時代においては、それどころか、腹をくくって自分を特定の器にはめるということをせず、振り上げた手が中空をさ迷い続けたまま、いつの間にかくたびれてしまうような人が多いように思います(そしてそういう人ほど他人の器の見誤りや、振り下ろした行為そのものに文句やいちゃもんを付けがちに感じる)。
いまどき「国滅ぶとき」と言われてもあまりピンとこないからもしれません。
ですが、冬の冷風や乾いた空気があってこそ熱燗が身に染みてくるのと似て、死や滅びや終わりを意識した時にこそ、それらへの反動に乗じてくるように、不意に口をついて、また筆が走って産まれてくるのが歌や詩なのではないでしょうか。
てんびん座で新月を迎えていく今週、あなたはどこか切羽詰まるような状況に置かれていく中で、生きのびるための力強い動きをスタートさせていくことでしょう。
ときに善良、ときに不良。
19世紀末、ヨーロッパ文明を逃れてタヒチ島での原始生活に希望を見出そうとした画家ゴーギャンは、最晩年にタヒチ島から北東に約1500kmの海域に位置するマルキーズ諸島でいくつかのエッセーを書きました。
その内の「人生とは」という一見、野暮ったいタイトルのエッセーでは、自身の人生を振り返りながら、次のようなことが書き記されている。
「人生とは、人がそれを意志的に実践するのでなければ、少なくともその人の意志の程度にしか、意味を持たないものだ、と私は考えている。美徳、善・悪などはことばである。もし人々が、それを挽き砕いて建物をたてるのでなければ、……意味を持たない。」
何とも率直な物言いですが、その後は冷静になって一歩引いてみたり、唐突に告白めいた熱のこもった文章が出てきたり、愚痴っぽくなったりと蛇行を繰り返しながら、やがて
「私はときは善良であった――私はそのことで得意になりはしない。私はしばしば不良であった――私はそれを後悔しない」
という爽やかな文で一息つきます。
いささか牧歌的ではありますが、今週のあなたにとってこうしたゴーギャンの爽やかな言い切りは、ある種の救いになるのではないでしょうか。
今週のキーワード
「すべては真剣であり、ばかばかしくもある。」