
おとめ座
愚かで透過

透過モードでGO
今週のおとめ座は、「バックルーム」への壁抜けのごとし。あるいは、唐突に、不明な理由で、「なぞのばしょ」へと突きぬけていってしまうような星回り。
バックルームとは、2020年頃に欧米圏で広がったインターネット都市伝説で、現実世界から「透過モード」により迷い込んでしまう、黄色い壁紙と蛍光灯とカーペット敷きの部屋を貴重とした閑散とした無限空間のこと。
ここで言う「透過モード」はゲーム用語の「noclip」の訳語で、ゲーム内を移動するときに、壁やオブジェクト、他のキャラクターなどにぶつかって動きが制限されないようにするデバック用のモードのこと。要は、本来なら到達不可能な「なぞのばしょ」に行けてしまうといったバグの発生を前提としているわけです。
例えば、2006年発売のニンテンドーDS用ゲーム『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』では、特定の場所で通常なら使わない操作(室内で「なみのり」)を実行すると、到達不可能なはずのマップ外空間に移動することができる「なぞのばしょ」があったが、こうしたゲームのバグが異世界に行く方法として想像されるようになったきっかけとなったとする非常に説得力のある説も出ています(廣田龍平『ネット怪談の民俗学』)。
ここでポイントとなるのは、これまでの民話的世界なら「異世界に行く」ためには、何らかの特殊な条件が重なったり、複雑な儀礼的手順を踏まなければならなかったのに対し、現代の都市伝説や異世界転生ものでは次第に「不明な理由で」「唐突に」非日常空間を体験できてしまうといった、ゲーム的な世界観に依拠するようになってきつつあるということ。
同様に、4月5日におとめ座から数えて「ノリと勢い」を意味する11番目のかに座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、どこか非人間的で、偶然的な仕方で普段ならまず到達不可能な場所へと足を踏み入れていきやすいでしょう。
木村蒹葭堂の表情
爛熟期の江戸時代に、大阪で酒造業者をしながら、自邸を知識人の集まるサロンとして、書画や本草学・医学・蘭学などあらゆる分野の貴重な書物や物品を蒐集した木村蒹葭堂(けんかどう)という伝説的な人物がいます。
彼は一体何をした人物なのかと問われると、何もしなかったようでもあるし、あまりにも多くのことをしたようにも思えるのですが、とにかく彼の家には毎日、さまざまな人が訪れ、また多くの人と手紙のやりとりをして、人びとは彼の影響を受けたようです。その意味で、彼は世間の媒体(メディア)になりきったのだと言えますが、その器の大きさはこうして彼の実績を書いてみても、いまいち掴めない感じが残ります。
ところが、当時の画壇の大御所である谷文晁が描いた彼の肖像画を見ると、それがなんとも特徴的なのです。ぼんやりとした暖かい目に、長く垂れた耳、大きな鼻、そして何より、口を大きくあけて笑っているその表情は、一歩間違えれば愚かにしか見えません。
しかし、ゲーム世界において通常モードから「透過モード」に切り替わったプレイヤーというのは、もしかしたらこんな表情をしているのではないでしょうか。
その意味で今週のおとめ座は、どこかしら「愚か」になって自身を世間や世界に開いていくことがテーマとなっていきそうです。
おとめ座の今週のキーワード
動きの制限を解除する





