
いて座
今まで魚をありがとう

リスクを減らせばハプニングも減ってしまう
今週のいて座は、『幻聴に返事をすると桜になる』(北大路翼)という句のごとし。あるいは、妄想と現実、嘘とまことのあいだに引かれた境界線をみずから取り去っていこうとするような星回り。
統合失調症の症状の根幹には、自分の内面が筒抜けになってしまっているのではないかという感覚があり、具体的には、町で自分のことが噂されているとか、悪口を言われている、盗聴されている、神様がテレパシーで罰を与えてくるなど、さまざまなバリエーションの幻聴や妄想が展開されていく。
そして、それらへの対処としては一般的に「幻覚や妄想が聞こえても反応してはいけない」ということが言われてきた。反応すると強化されてしまうので、あいまいに否定しつつやり過ごすのが賢く、良心的であると。ところが、掲句では「あれ、これって幻聴なのかな」と自覚しつつも、ついついそれに返事をしてしまったのだという。
例えば、「居るの?」という妙に甲高い声の呼びかけが直接脳に飛び込んできたとして、ついこちらも「あ、そっちこそいたのね」なんて返しちゃったりして。空想の世界に乗っかってさらに一歩踏み込んでいく。
すると、ひらりと桜の花びらが落ちてきた。その瞬間、これまで目に見えなかった声の主が、にわかに桜の樹の精霊の姿に変わっていったりするわけだ。しかし、掲句の「桜」はまるで幻覚のようでおそらく本物であり、幻聴などと言いつつもこの句の本意は「嘘から出たまこと」的な驚きにあるのではないだろうか。
同様に、4月5日にいて座から数えて「融解」を意味する8番目のかに座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、積極的に空想の世界にのっかっていくことで突然変異やハプニングが生じていくプロセスそのものを楽しんでいくべし。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』のイルカ
私たちは「人類は地球上で1番賢い種族である」と無意識のうちに思い込んでいますが、もしかすると真実は全然違うのかも知れない…。ダグラス・アダムスのおバカSF『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、まさにこうした感覚を1つの物語にまで仕立てあげた作品と言えます。
ある日、銀河ハイウェイの建設のため、予定地にあったにも関わらず立ち退き期限の過ぎた地球の取り壊しが決定したことを宇宙船団がアナウンスしにきます。ところが、(地球で3番目に賢い)人類はそれに気付かない。変わりに、2番目に賢いイルカが先に気付いて、脱出前に人間たちに別れを告げるシーンが登場します。
彼らの人類への最後の警告は、フープをくぐり抜けながら米国国歌をハミングしつつ2回転後方宙返りを決める“芸”と誤解され、たくさんの観客に拍手と笑顔でもって迎えられるのですが、その実際の内容は「さようなら、今まで魚をありがとう」というものでした。
つまり、食料供給のためにずいぶん役に立ってくれたけれど、ついに自分たちのメッセージを真剣に受け取ってくれなかったね、という訳です。果たして、この話のイルカは単なるフィクション(嘘)なのでしょうか、それとも「嘘から出たまこと」なのでしょうか?
いずれにせよ、今週のいて座の人たちは、ありふれた嘘のなかに何かと一抹の真実を見出していくことになりそうです。
いて座の今週のキーワード
1番賢いのはネズミ





