おとめ座
現実を反転させる力
現実優位の時代にて
今週のおとめ座は、『ドン・キホーテ』の登場人物たちのごとし。あるいは、大いなる虚構の力をもって現実を引っ張り上げていこうとするような星回り。
身も心も倦怠感に襲われてすべてのやる気が起こらず、家の中でさえ妊娠中のカバのようにのろのろとしか歩けない…。もし今あなたがそんな状況にあって、この不活発な状態を反転させるエネルギーを欲しているのなら、セルバンテスの『ドン・キホーテ』のことを思い出されたい。
主人公のドン・キホーテは寝るのも忘れて騎士物語を読みふけった結果、みずから諸国を遍歴する騎士になりきって、さっそうと冒険に出かけていく。そこでは、平凡な道端の旅籠は銀の尖塔が立ち並ぶお城へと様変わりし、巨人の群れに見立てられた風車は槍を向けられる。彼は明るく元気はつらつにあらゆることにのぞみ、従者の忠告もどこふく風。
そもそも遍歴の騎士の生涯には数々の危険と不幸がついてまわるものだが、また、それゆえにこそ、遍歴の騎士は今すぐにでも国王や皇帝にでもなれる立場にあるのだ
そしてそんなドン・キホーテと冒険を続けるうちに、従者のサンチョ・パンサの心境にも変化がおきてきます。
誰もが一生の終わりに、いやでも迎えなきゃならねえ死ってやつをのぞけば、どんなことにも救いの手だてはあるもんだ
もちろん、ドン・キホーテの冒険はそれ自体がひとつの妄想であり、狂気にすぎません。ただ、物語の言葉はときに登場人物を超えて、読者にとっても現実の社会とぶつかっていくための強力な武器となり、生きる糧にもなるのです。
8月13日におとめ座から数えて「発語/発信」を意味する3番目のさそり座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、たとえ妄想であれ偽善であれ、少しでも自分の背中を押してくれるような会話や情報発信を心がけていくべし。
エミリー・ディキンスンの613番の詩
「みんなは わたしを散文に閉じ込めた」から始まるこの詩は、それ自体が19世紀アメリカにおける男性中心の、非常に因習的なピューリタン社会に対するディキンスンの果敢な告発であり、また自分の内なる声に素直に従うことを決意した意志表明の詩でもありました。先の続きを引用しましょう。
子どものころにわたしを
納戸に閉じ込めたように
「おとなしくしていなさい」
おとなしくですって! もしあの人たちが
わたしの頭のなかをのぞいたら
目まぐるしく回るさまを見て、小鳥を籠に
閉じ込めるように むずかしいと知るでしょう
小鳥はその気になれば、風のように
軽やかに 籠をのがれ出て
ほら 自由よ と晴れやかに笑うでしょう
わたしも 小鳥とおなじ
(内藤永里子訳、『わたしは名前がない。あなたはだれ?』)
今週のおとめ座もまた、ディキンスンやドン・キホーテのように、狭い思考領域や硬直した思考習慣の“外”へと、身をもって飛び出していきたいところです。
おとめ座の今週のキーワード
「籠」からの逃亡を企てる