おとめ座
霊威を招く
輪郭線のぼやけ
今週のおとめ座は、『立秋の雲の動きのなつかしき』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、掃き掃除をする手をふと止めて遠くを眺めていくような星回り。
今年の「立秋」は8月7日。真夏の入道雲はもくもくと上にふくらんでいくイメージなのに対して、秋の雲は、空の高いところを横に流れて、サーっと水平に、どこまでも広がっていくようなイメージがあります。
まだまだ真夏の気候が続くとは言え、作者はかすかに訪れ始めた秋の気配をふと見上げた先の「雲の動き」に見出したのでしょう。そして、そうした雲の動きを去年の秋だったり、もっと遠い過去にも見たことのあるような気がして、なつかしく眺めているというのです。
こうした「眺める」という行為は、それ自体が日常の文脈の奥にある非日常に片足をつっこんでいる訳ですが、井筒俊彦は平安の王朝文化における雅な生活基底感情であった「ながめ暮らす心」について、これは「事物の本質的規定性を朦朧化してそこに現成する茫漠たる情趣空間のなかに存在の深みを感得しようとする意識主体的な態度」なのだと言い表しています(『意識と本質―精神的東洋を索めて―』)。
すなわち、目の前のモノや出来事に鋭く焦点を合わせていくのではなく、むしろその意識の尖端をできる限りぼかし、遠い彼方へとずらしていくことで、あまりに明確な輪郭線で区切られた「本質的規定性」、すなわち強力な日常=社会の呪縛をすこしだけ開いて、その外部に広がる世界=宇宙からの霊威を招き入れていったのではないでしょうか。
その意味で、8月5日に自分自身の星座であるおとめ座に金星が入ってゆく今週のあなたもまた、そんな「ながめ暮らす心」をみずからの日常に取り入れてみるといいでしょう。
占者のまなざし
20世紀前半にフランスで活動したマクルーシスは、斬新な技法で描かれた静物画や風景画で知られた一方で、挿絵や版画でも重要な作品を残しましたが、その中に16人のそれぞれ異なる占術を駆使する占い師を描いた「占者たち」という版画作品があります。
占者が見つめているのが、星や手のひら、カードであれ、隠れた実態や不透明な未来を真剣に占おうとする者の視線は、知性と共感、魂のちからと心情のこまやかさといった、洞察力の2つの異なる原理に同時に従おうとしているように見えます。
おそらくこの作品自体は、自分にとってどの占者がフィットするか、自分がひいきにするべきはどんな相手なのかを、占術の内容や口コミなどといった先入観とは離れたところで、ただその視線の在り様によって選べるよう意図して作られたものなのでしょう。
しかし、いずれの占者にも共通しているのは、どこかに注意を凝らしていながら、ゆっくりしている、そんな特別な平静さをまとった空気感でした。そして、それは先の「眺める」という行為にも通底しているはずです。
今週のおとめ座もまた、そうした目に見えないものを扱う占者たちのように、いつもより一層深く落ち着いたまなざしを宿していきたいところです。
おとめ座の今週のキーワード
「ながめ暮らす心」