おとめ座
秘密と物語とその成熟
秘密の開封
今週のおとめ座のテーマは、秘密が語られるのにふさわしい時熟について。あるいは、時間をさかのぼる旅をしていくような星回り。
臨床心理学者の河合隼雄は、70歳のある女性が「50年前に人を傷つけるようなことをしたため、そのことを最近になって人から責められているような気がする」という訴えで来談した事例を取りあげ、秘密ということの大切さに触れていました。
この50年前のこととは、彼女が結婚後、近所の人たちが彼女の噂話をしていると思い込み、無記名で隣家にかなり失礼な手紙を出した、というもの。このときは何事もなく過ぎ、彼女はそのことについて誰にも話さず秘密にしてきたものの、事あるごとに思い出しては後悔や自責の念に駆られてきたと。
70歳になって、そのことが急に強くなって抑うつ状態がひどくなって来談した訳ですが、治療の過程のなかで、医者の勧めもあって彼女ははじめて夫に秘密をうちあけます。すると、夫は「聞いてくれただけでなく、夫の方の苦しみなども聞く機会になった。夫婦でいながら互いにやはり一人一人苦しみを背負った人間だと思った」という展開につながり、思いがけず治療は進んでいったのだとか。
河合はこうした事例を受けて、「夫婦というものは協力し合うことはできても、理解し合うということは難しいのかも知れない」と前置きしつつ、次のようにも述べていました。
この妻があの秘密を夫に話してしまうような人であれば、夫婦の関係はあんがい破綻していたかも知れない。秘密を一人で持ち続け、それについて考えることによって、この女性は自分を支え強く生きてきたかも知れない。秘密が語られるには、それにふさわしい時熟を必要とするのである。(『生と死の接点<心理療法>コレクションⅢ』)
それでも、12月13日におとめ座から数えて「心の支え」を意味する4番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、安易に言葉にして発散してしまう代わりに、身体がそれを受け止めきって“然るべきタイミング”を訴えてくるまで秘密にしていくという態度が求められていきそうです。
訪れの演劇
能を、彼方から誰かがやってくる「訪れ」の演劇と呼び始めたのは、いったい誰だったかはともかく、これは非常に本質をついた巧い言い方です。そして、そんな「訪れ」の主たる人物である「旅の僧」には、どこか今のおとめ座の人たちのもとに現われつつある運命そのものと重なっていくように思います。
よそ者である「僧」は、どこからか舞台にやってきては、戦争で人を殺した過去に苦悶する武士であれ、その恋と欲望ゆえに罪に問われる女性たちであれ、異形の獣や桜の精であれ、舞台上でやはり彼方からやってきた亡霊たちと出会っていきます。
僧は彼らの声を聞き、ときに諭し、ときに反論しつつも、次第にその声を受け入れ、彼の罪が許され、悲哀が癒されていくに従って、彼らの声はいつの間にか<自分自身の物語>となっていくのです。
今週のおとめ座もまた、そんな風に改めて秘密の声を聞き、自分自身の物語を編みなおしていくことがテーマになっていくでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
誰かの口を借りて内なる秘密が語られる