おとめ座
自分なりの基準を研ぎ澄ます
※7月2日配信の占いの内容に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年7月3日15時11分更新)
救急車の音は正常さの証し
今週のおとめ座は、『短夜の端から端へ救急車』(出口善子)という句のごとし。あるいは、日常に埋もれがちな“基準”を改めて掘り起こしていこうとするような星回り。
深夜、鋭い警報を鳴らしながら猛スピードで走り抜けていく音を詠んだ一句。平和な時代に慣れきっていると、こうした救急車の音だけでも異常事態が起こったのではないかと恐れおののく人も多いもの。
その点、昭和14年生まれの作者は、戦中に経験した空襲など、戦争の時代をリアルに体験している世代ですから、救急車の音一つとっても、その感じ方には平和ボケした現代人とは大きな違いが出てくるはず。
考えてみれば、戦争というのは敵国の兵士を一人でも多く殺すことが称揚され、また自国の命を湯水のごとく使い捨てにする究極の異常事態であって、それに比べれば、救急車の音というのは、異常事態どころかたった一つの命を救うために夜を徹して走り回る人たちがいるのだと教えてくれる、正常さの証しに他ならないのではないでしょうか。
五感は文明が進めば進むほど鈍くなるものですが、都会の喧騒に慣れきってこうした平和に対する感性までも摩耗していくことのないよう、普段よく耳にしている音の意味をこうして時おり確かめていきたいところです。
7月3日におとめ座から数えて「生命感覚」を意味する5番目のやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、ありうべき「異常/正常」の基準をみずからの感覚や実感とすり合わせてみるといいでしょう。
空間地図から時間地図へ
例えば、地図というものはその広がりの上に、われわれを取り巻く空間の特性を克明に映し出し、さまざまなゆらぎをもつ線に彩られて地形は変化し、また、道路や線路、駅や建造物など人工的な都市は整った幾何学的なかたちを伴って地表の表情をひきしめていますし、そうした地図の通りに目的地にたどり着けることが社会においては正常さの証しということになっています。
ただ、そうして地図を眺める私たちは、空間の広がりだけでなく、無意識のうちにそこに時間の広がりも読み取っているはず。例えば、直線距離ではそう遠くないのに、いざとなると足が伸びず遠く感じる場所がある一方、そんなに近くないはずなのに、アクセスのよさも相まって足繫く通っている場所もあったりする。
ゆっくり歩くこと、小走りすること、ふいに佇むこと、汗をかいて階段をのぼりおりすることなど、空間を移動し、時間を切り開く人の動きが、空間地図とは別の表情を見せる「時間線」ないし「心の距離線」をつむぎ、「時間地図」を誕生させていく。そして、そこで私たちは、異様に引き寄せられ接近してしまっている“お気に入り”の領域がある一方、意外なところに遠く取り残された孤島のごとき“不可視”の領域があることに気付かされる。
その意味で、いくら物理的に近い距離にあるからと言って、心の距離線的に遠いところへ無理に自分を追い立てることは、ある種の異常事態でもあるはず。
今週のおとめ座もまた、そうして日ごろの自分の行動がいかに多くのものを取捨選択し、編集を経ながら成り立っているかを振り返っていく中で、自然とみずからの「異常/正常」の基準が改めて浮き彫りにされていくかも知れません。
おとめ座の今週のキーワード
心の距離線で地図を描く