おとめ座
それ自体を超えてゆけ
地味な野の花のトゲ
今週のおとめ座は、『針のとぶレコード川のあざみかな』(あざ蓉子)という句のごとし。あるいは、自分の精神生活に不可欠な“痛み”を研ぎ澄ましていこうとするような星回り。
「あざみ」は4月頃から初夏にかけて野山に紅紫色の素朴な花を咲かせ、茎のところに鋭いトゲを持っているのが特徴。
レコードが針飛びしたときの「ブツッ」という音と、何とも言えない不安と悲しみ。それを掲句では、あざみのトゲに触ったときの鋭い痛みに重ねて照応させています。これは逆に言えば、自分の部屋でレコードを聴いている作者の精神にとって、あざみのトゲの感覚はそれだけ必要不可欠なものだったのかも知れません。
ただ何の切れ目もなく、ごく当たり前のように出来事を連続させ、受けいれていくのではなく、窓の向こうで花咲いているあざみが同時に鋭いトゲを備えているように、ときに鋭い違和感をむき出しにしていく。それこそが、作者にとって噓偽りのない心象風景であり、自分らしい日常風景だったのでしょう。
同じトゲのある植物でも、これが絢爛(けんらん)でド派手な薔薇の花であったなら、かえってどこか昼ドラのようなバタ臭さや空回り感が出てしまっていたはず。あざみほどの地味な野の花であったからこそ、トゲの痛みは何気なく自然なものとして作者の心に入ってきたはず。
4月13日におとめ座から数えて「創造性」を意味する5番目のやぎ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、惰性で日常を右から左にただ流していく代わりに、何気なく鋭いツッコミや批評精神を発揮していきたいところです。
想像力と錬金術
音楽を聴いたり本を読んだり俳句を詠んだりすることの醍醐味というのは、どこか麻薬的なトリップに似ています。そのことについてかつて寺山修司は、「想像力による出会い、旅、抽象化、価値の生成といったものが、「それ自体」の力を大きく超えてゆくことになるから」(『青蛾館』)だと述べていました。
「それ自体」とは、実際に書かれていた文字列や用意された回答のことであり、あるいは単に日常に転がっている事実のことだとも言えます。そこに読者が想像力によってみずからの体験や感情、思いを浸し、織り込み、交わらせていく働きかけを通して、まったくの別物へと変容を遂げていくのです。
当然、読者自身もそれに合わせて変容していきますから、鑑賞や読書、句詠の効用はまずもってその変身作用にあるのだと言えるでしょう。ただ、それは思い通りの変身というより、一種のギャンブルですから、そのまま事件へと発展してしまうことだってありえる訳です。
人間は欠落だらけの真実しか持ち得ないし、音楽や本、俳句だってとても小さな真実の断片に過ぎませんが、それでもそれらは私たちに何か別の真実を与えてくれるのです。今週のおとめ座もまた、そうした一種の融合体験を欲していくだろうし、そこに自分を賭けてみたくなる衝動がふとした拍子に強まっていくことでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
感覚の融合