おとめ座
関係性の掘り出し
二人で頑張ろう、同僚
今週のおとめ座は、同僚的な関わりへの舵切りのごとし。あるいは、「ケア的である」ことの中に、ひとつの可能性を感じていくような星回り。
日本は世界一の長寿国であると同時に、世界一少子化が進んでいる国でもあり、多和田葉子の小説『献灯使』は、そんな日本社会の特質を縫い合わせたような作品となっています。東京に住む108歳の老人作家の義郎が、身体が不自由でつねに微熱を発しているひ孫の無名(むめい)を育てるという特異な設定の物語の中で、通常は元気なはずの子どもが病気がちの横臥者で、人に世話されがちな老人が介護者という構図の反転が起きているのです。
そのためもあってか、義郎は無名を無意識に見下す訳でも、過剰に保護的になりすぎる訳でもなく、事あるごとに迷いつつも絶妙なバランスでケア的であろうとしていくのですが、それを象徴しているのが義郎が無名を育てる覚悟を決めたシーンです。無名が産まれた時、孫はどこかへ旅行へ行ったまま行方不明で、母親も出血多量で死んでしまい、義郎は途方にくれていました。
義郎は、ミニチュアのような赤ん坊の手を握って小さく動かし、大声で泣き笑いしたい気持ちが爆発し、口から思わず飛び出してきたのが、「二人で頑張ろう、同僚」だった。これまで使ったことのない「同僚」などという言葉がなぜこの瞬間出てきたのだろう。
思わず「同僚」と呼びかける義郎と無名のあいだには、家父長的な父と子という序列関係はもはや存在していません。その後、無名の父親である孫の飛藻が戻ってきた際、義郎は「自分の子がかわいくないのかと」と詰問するのですが、「俺の子かどうか、どうしてわかる」というつれない返事をした孫を責めた後、「思わず陳腐な台詞を吐いてしまった」と自分の創造性のなさを反省し、改めて「同僚」との関係性に立ち戻っていったのです。
2月14日におとめ座から数えて「遊び」を意味する3番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、固定的な決めつけに基づく道徳ではなく、より動的な倫理的振る舞いとしてのケアということを自身の身近な文脈に取り入れてみるといいでしょう。
人間関係を彫刻する
ルネッサンスを代表する彫刻家ミケランジェロが人類に残してくれた遺産のひとつに、次のような言葉があります。
余分な大理石がそぎ落とされるにつれ、彫像は成長する。(The more the marbles wastes, the more the statue grows.)
くだらない駆け引きをしなければ得られないような友情や、恋であるならば、こちらから願い下げする。先の義郎の口から飛び出した「同僚」という言葉も、そういう「そぎ落とし」の果てにやっとたどりついた、まだ名前のついていない彫像だったのだとも言えます。
そして今週のおとめ座においても、それくらいのひたむきさがちょうどいいのかも知れません。彫刻家になったつもりで、本質だけを残して、ノミで余分なものはそぎ落としていくといいでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
SNSでは余分な言葉ばかりがまとわりついてくる