おとめ座
夢を継ぐ
古い夢を見続けるための継続的努力
今週のおとめ座は、世田谷区代田橋の古くからの町の住人のごとし。あるいは、土地の見る夢と接続していこうとするような星回り。
宗教学者の中沢新一は、代田橋について綴った短い文章のなかでこの町を「けなげな町」と評しましたが、それはこの町が「自分の身体が健康だった頃の記憶をなくしていないで、その記憶を頼りに夢を見ながら、現実を乗り越えようとしているようにさえ見える」からという理由でした。
今では甲州街道と環七の交わるポイントにあり、京王線の線路の脇にひっそりと神社がある他は、駅前の飲み屋街や沖縄タウンがあるだけのこの土地ですが、電車や自動車も走っていなかったはるか昔には、このあたりはちょっとした聖地だったのです。
赤松で覆われた小山の北と南の2か所にうがたれた小さな谷は、中世の頃には「モリ」と呼ばれる死者の埋葬地となり、のちに南は羽根木神社、北は大原稲荷神社と呼ばれました。ところが、大原稲荷神社からのびる参道は近代化の過程で線路でまっぷたつにぶち切られ、線路の向こう側の商店街も聖なる中心を失ったまま、取り残されてしまったのだと。
それでも、毎年9月半ばに行われる神社の例祭に結集する古くからの町の住人は、祭礼の間中、踏切はないものと幻視することに決めることで、稲荷神社をこの町の精神的中心を置き直し、そこからまっすぐ玉川上水までつづく参道を一時的に復活させることで、近代の開発のもたらした傷や断絶を修復し続けているのです。
同様に、9月4日におとめ座から数えて「心理的基盤」を意味する4番目のいて座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、そうした「けなげさ」や「やさしさ」をできるだけ取り戻していきたいところ。
ご先祖さまになるんだ
柳田國男の『先祖の話』には、自分からご先祖様になるんだと言っている男が出てきます。その人は、はんてんを重ねて着て、ゴム長靴を履いている白髪の老人で、もとは大工さんをしていたのだと言います。
兵隊として戦争にも行き、それから結婚して子供を育て、さらに孫もでき、既に自分の墓まである。それで、そのうち自分もご先祖様になるんだと言っているという話なんです。
こういう人は、もう所属する会社や職業や、過去の実績、持てる財産なんかはもう自分のアイデンティティを支えていません。自分を支えているのはご先祖様であって、自分もその一員になるんだということがアイデンティティとなっている。これは強いです。
だって突然クビになろうが、天涯孤独になろうが、日本が国家不渡りになろうが、ご先祖さまを消すことはできませんし、ゆえにこの人のアイデンティティが揺らぐこともないのです。柳田はそれにすごく感動しているのですが、それは彼こそ近代化の過程で失われ、また見えにくくなっていった日本人としてのアイデンティティやその精神的伝統を求め続けた人だったからでしょう。
その意味で、今週のおとめ座もまた、自分のアイデンティティのルーツがどこにあるのか、そしてそれをどう次代に繋いでいくか、といった問いかけがいつも以上に胸に去来しやすいタイミングと言えそうです。
おとめ座の今週のキーワード
心理的基盤の異常を鎮め、傷を繕うこと