おとめ座
力湧きたつ
新風を通す
今週のおとめ座は、『秋立(たつ)やあつたら口へ風の吹(ふく)』(小林一茶)という句のごとし。すなわち、変わりゆく自然に身を添わせていこうとするような星回り。
「あつたら」とは「あたら若い命を」の「あたら」のことで、「もったいなくも」とか、「惜しいことに」の意。また、「秋立つ」とは暦上の秋になる「立秋(今年は8月7日)」から秋が深まるまでのあいだ、秋の兆しとしての涼しさを朝夕の風などに感じたときに使われる秋の季語。
おそらく、作者が日ごろから口数が多かった自分自身への戒めの意味でつくった一句なのだと思いますが、それを罪悪感や自己卑下など内向きの観念的な言葉で表すのではなく、せっかくそんな涼やかな風が吹いているのに、そのことを感じる間もなくいたずらに会話を言葉で埋めてしまってはもったいないではないかと、どこか朗らかに明るく詠んでいる点が秀逸です。
あるいは、涼やかな季語を使いつつ、爽やかな読後感を崩さないよう気を配る。つまり、できるだけ目の前の自然に即した自分となり、人為を環境とを一体化させていく、そのための試みこそ詩の本質であるという作者なりの詩論としても、掲句は受け止めていくことができるのではないでしょうか。
その意味で、27日に自分自身の星座であるおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、涼やかな新風をわが身とわが心に通していくようなつもりで過ごしていくべし。
転機とシンクロ
俳句の宗匠(マスター)となって賑やかな日本橋界隈に住んでいた松尾芭蕉は、37歳の時に突如として、当時は辺鄙な場所であった深川の粗末な小屋に移り住みました。そしてそれだけでなく、それまでの売れ線の俳句とは異なる独自の作風を確立し始めたのです。
その頃に詠まれた『枯枝に烏のとまりたるや秋の暮』という句に添えて、歴史小説家の中山義秀は『芭蕉庵桃青』の中で次のように書いています。
「彼はその頃からして、体内になにやらうごめく力を感じていた。小我をはなれ眼前の現象を離脱して、永遠の時のうちに不断の生命をみいだそうとする、かつて自覚したことのない活力である。/その活力が「烏(カラス)のとまりたるや」という、字あまりの中十句に、余情となってうち籠められている。」
こう書いた中山もまた、早咲きの同級生を横目に、中学校の教師生活や校長とのトラブル、妻の闘病と死、貧困といった生活上の困難を経て、やはり37、8歳頃にようやく自身の文学の道を確立したのでした。中山にとって文学の道とは、時代や状況に流されることのない、独立自尊の気風であり、芭蕉を描いた筆致にも、自然と自身のたどってきた道への思いが重ねられていたように思います。
同様に、今週のおとめ座もまた、自己卑下するのでも過大評価に陥るのでもなく、ありのままに自分自身を捉え直していくことがテーマとなっていくことでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
これでいいのだ