おとめ座
真剣なASOBI
言霊の蛇
今週のおとめ座は、『水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首』(阿波野青畝)という句のごとし。あるいは、言葉で処理する代わりに、言葉そのものを泳がせていこうとするような星回り。
10円玉にも描かれている宇治の世界遺産・鳳凰堂は、池に浮かぶようにして建てられたお堂であり、掲句ではまるで極楽浄土を一心に求める仏教者のようにその池を泳ぐ蛇が詠まれています。
とはいえ、もし日常の常識的な情報の導くままに、その情景をただ「泳ぐ」という言葉を使ってあらわしたなら、読者の側もこの句をただの状況説明として処理して、後には何も心に残らなかったはず。
ある日ある時「水ゆれて」、そちらに目を向けると「蛇の首」が見えている。作者がその刹那のはざまに「鳳凰堂へ」という言葉を添えた瞬間から、この蛇は読者の心象風景の中で永遠に泳ぎ続ける”言霊の蛇”となったのかも知れません。
その意味で、16日におとめ座から数えて「言語化」を意味する3番目のさそり座で満月を迎えていくあなたもまた、月並みな言葉遣いで感動の芽を摘んでしまうのではなく、すこしでも心が動くような仕方で言葉を紡いでみるといいでしょう。
砂遊びとしての人生
以前、鎌倉文学館を訪れた際に、「人生もまた一輪の花のようにはかないものであるならば、友よ、砂の上にぼくらの家を建てて、遊ぼう」という一文を見かけたことがありました。湘南ゆかりの文学者たちが自分たちの交友をそんな風に言い表していたのです。
子どもであれば、そんなことをいちいち言語化したり、考えたりしている訳ではないでしょうけれど、実際に砂場や砂浜で大きなヤマをつくり、トンネルを掘って、そこから向こう側をのぞいていると、存在するもののはかなさと、それゆえの美しさのようなものが感覚的にわかる瞬間があります。そんな瞬間のことを思うと、大人が大人であるがゆえに、子どものような遊びを真剣に取り組んでみたくなるのも、もっともなことでしょう。
作者と読者との関係もまたある種の「砂の城」であり、すべての創造的行為が「砂遊び」なのだとしたら。今週のおとめ座もまた、そんなはかなさへの感受性を改めて取り戻しつつ、自分なりの心の動きを何かしらの言葉にのせてみるべし。
おとめ座の今週のキーワード
砂はガチガチに固まっていないからこそ遊べる