おとめ座
地を這うように
戦略と準備
今週のおとめ座は、「堅香子にまみえむ膝をつきにけり」(石田郷子)という句のごとし。あるいは、普通なら見過ごしがちなサインを受け取り自らを励ましていくような星回り。
「堅香子(かたかご)」とは万葉集のころから使われてきた片栗の古名で、山地の林などに群生して特徴的なうすピンクの花を咲かせます。作者もまた、そんな片栗の花にお目にかかろうと早春の林を歩いていて、目当ての花をやっと見つけたのでしょう。
掲句でおもしろいのが、その際に「まみえむ」という謙譲表現を使っていること。まるで貴人にでも接見するかのように、膝をつき、目の位置を低くして、うつむき気味に、儚げに咲いている花に深い敬意を込めているのです。
それは単に乙女の恥じらいからくる仕草という訳ではなく、下向きに花を咲かせることで霜や雪から身を守りつつ光あふれる春を待つ、確かな戦略と準備に基づいた忍耐力の現われでもありました。
もしかしたら作者はそのことを知っていたからこそ、片栗の花に会いにわざわざ山地までおもむき、自分の中の何か、春を待つ気持ちとしか言いようのないものをそっと確認していたのかも知れません。
同様に、24日におとめ座から数えて「心の支え」を意味する4番目のいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、小さなものやかそけきものの消息をたどいっていくことで、自身の中で消えそうになっていた希望を保持させていくべし。
あの世では目より鼻が頼りになる
今でもすこし郊外に足をのばし、断層が地上へむきだしになっている土地や山野などを歩いていると、濃厚な土の臭いに出合うことがあります。なお占星術では、世界の構成要素として「火地風水」の4つを取り上げますが、そこで論じられる「地」は堅実さや安定性の象徴であり、ここで言及している土臭さとはまったくニュアンスが異なります。
それは「泥にまみれて生活する」と言う時の、大自然との根源的な親近性を匂わすと同時に、生活空間にもたらされるべからざる“忌々しきもの”の象徴でもあるという相矛盾する感情を引き起こすのです。豊穣の起源でありつつも、生あるものが腐敗し、死の世界におもむく際の舞台でもある両義的な“他者”として人間の傍らにある「土」は、その臭いをじかにかぎ、直接触れたものに、都会のコンクリート群に反逆せよと語りかけるのです。
今週のおとめ座もまた、みずからの心理的基盤を確かなものにしていくにあたって、差し当たりそうした意味での“土”の臭いをかぎ分け、鼻を利かせることができるかを確かめておくといいでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
「地に足をつける」ことの怖さと豊かさ