おとめ座
贈り物のシェア
海の彼方からの贈り物
今週のおとめ座は、「寄鯨(よりくじら)」を分け合う村人のごとし。あるいは、ふとした瞬間に他界との交信へと入り込んでいくような星回り。
島崎藤村に「名も知らぬ遠き海より流れ寄る椰子の実一つ……」から始まる「椰子の実」という詩がありましたが、ほんらいは遠洋の深い海を泳いでいる鯨が何かの間違いで狭い湾に迷い込んでやってくることを、日本では昔から「寄鯨」と呼んできました。
この寄鯨は捕らえられて、その身や肉はすべての村人に分配されていきました。これは、海から寄り来るものは他界からこの世にもたらされた贈り物であり、特定の誰かが独占してはならず、全員が平等に分けあわれなければならないという暗黙の了解があったことを表しています。
例外としては、難破船の荷物や材木が流れついたときには、第一発見者がそれを自分のものにすることができたようですが、いずれにしても海の彼方から流れ着いたものは、この世の誰のものでもないし、もし受け取るとしても特別な配慮をしなければならないというフォークロアがかなり古い時期から日本には根付いていたのです。
現代社会では、そうしたかつての「海の彼方」の相当する“外部”が現実には想像しづらくなってしまいましたが、それでも人びとの心の奥底には残存しているはず。
17日におとめ座から数えて「意識の外部」を意味する12番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、予期しない形で自分のもとに転がりこんできた“贈りもの”はできるだけ独占せず多くの人とシェアしてみるといいでしょう。
エミリー・ディキンスンの「可能性の家」
例えば、生前はほとんど誰にも知られず、死後になって初めて詩人として栄誉を受けたエミリー・ディキンスンは、意識の外部から贈り物を受け取り、シェアするということを、自分の部屋を持つこと、そしてそこで詩を書くことを通じて行っていきました。彼女の生涯の内でも最も多作の歳に書かれた詩を、一つ引用してみましょう。
可能性の家に暮らしています
散文よりも、すてきな家です
窓が多く/入口も魅力よ各部屋は 杉の木立
人目は避けられるし
朽ちない天井は/天空の丸屋根訪れるのは このうえなく美しきものたち
そして 仕事は――小さい腕を
精いっぱい伸ばして
摘み集めていくの 楽園を
(内藤里永子訳)
詩は、彼女にとって「散文よりもすてきな家」であり大きな可能性を秘めたものである一方で、新しい可能性への挑戦の場でもありました。今週のおとめ座もまた、まずは人目につかないところで、ささやかでありつつも偉大な挑戦を思いきり試みていくべし。
おとめ座の今週のキーワード
薄明の窓辺に置かれた言葉