おとめ座
「輝かしい肉の夢」のなかで
こちらは8月9日週の占いです。8月16日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
壊れるものと壊れないも
今週のおとめ座は、さながら「明るい汀(みぎわ)」のよう。あるいは、「広大な宇宙空間の海と、等しく広大な内面の陸」とのはざまに佇んで「揺れ」ていくような星回り。
冒頭の言葉は三島由紀夫の『美しい星』に出てきたもの。この物語は、埼玉県飯能市に住む大杉家の家族四人がそれぞれ円盤を見て、自分が別の星からやってきた宇宙人であるという意識に目覚めるという、三島作品には珍しい、というか唯一のSF小説となっています。
そうして日本の家父長的文化から距離を置きつつ、人間の肉体をもつがゆえにどうしても矛盾や危うさを持ってしまう「異星人」の視点から、地球を救うための様々な努力が重ねられていくのですが、その結末では一家の父親である重一郎が癌で危篤に陥ります。間もなく死を迎えんとする中で、「宇宙人の鳥瞰的な目」をもつ不死性を象徴する存在であった重一郎が、突如として「死」を意識するようになり、こう述べるのです。
「生きてゆく人間たちの、はかない、しかし輝かしい肉を夢みた。一寸傷ついただけで血を流すくせに、太陽を写す鏡面ともなるつややかな肉。あの肉の外側へ一ミリでも出ることができないのが人間の宿命だった。しかし同時に、人間はその肉体の縁を、広大な宇宙空間の海と、等しく広大な内面の陸との、傷つきやすく揺れやすい「明るい汀」にしたのだ。」
おとめ座から数えて「波動的存在」を意味する12番目のしし座で8月8月夜に新月が形成されたところから始まる今週のあなたもまた、必滅と不死のはざまで、さまざまな思いや記憶に触れていくことになるでしょう。
外部からのまなざしを求めて
確かに人類は既に月に到達し、今はもっぱら火星への有人飛行がホットトピックとなっていますが、逆に言えば視界に映るそれ以外の星には一つたりとも直接たどり着いたことはなく、しかも繁栄を手にする代わりに多くの動植物を滅ぼし、環境を破壊してきたために、今や自分たちの存続も危ぶまれるところまで来ています。
なぜ人類は多大な犠牲を払ってまで宇宙へ進出し続けようとするのか。そこにはテラ・フォーミングなど居住空間の拡張を企図した投資的な理由もあるとは思いますが、それだけではなく、自分たちが閉じた世界の中で何らかの理由で滅びてしまうという未来のシナリオに備え、人類という存在がこの宇宙の片隅に在ったのだという記憶をどこかに残しておきたい、そして誰かの記憶を通じて永遠に生きたいという本能的な欲求のためではないでしょうか。
その意味では、今やすべての人類は「重一郎」が今わの際で見た夢を、ひとつの現実として受け入れつつ、そこで生きようとしているのだとも言えるかも知れません。あなたはどんな記憶を未来へ残していきたいですか?今週はそんなことを考えてみるといいでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
パースペクティブが交錯する場としての夢