おとめ座
今まで生きてきた中で一番丁寧な一歩を踏み出してみる
こちらは6月14日週の占いです。6月21日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
語りえないものを語ること
今週のおとめ座は、折口信夫の「山越しの弥陀増の画因」の一節のごとし。あるいは、時空を超えて何かがオーバーラップしていくような星回り。
民俗学者の折口信夫はエッセイ「山越しの弥陀増の画因」の中で、山越しの阿弥陀仏を描いた数々の来迎図について語りながら、「私の物語なども、謂わば、一つの山越しの弥陀をめぐる小説、といってもよい作物なのである」と言います。
この「私の物語」とは、折口が生前唯一完成させることのできた小説『死者の書』のことで、中将姫という高貴な少女のはじめての恋と、若くして非業の死を遂げた皇子の生涯最後の恋とが時空をこえて出会い、切なくすれ違っていくラブロマンスです。そして、先のエッセイのなかで、この小説を書いたことについてこう述べているのです。
そうすることが亦(また)、何とも知れぬかの昔の人の夢を私に見せた古い故人の為の罪障消滅の営みにもあたり、供養ともなるという様な気がしていたのである。
この「古い故人」が誰かは折口は自分の口からは明かしませんでしたが、その後には日本人の積み重ねてきた意識や象徴が重要なのであって、私個人のことではない、「私の心の上の重ね写真は、大した問題にするがものはない」のだと続けています。
同様に、18日に自分自身の星座であるおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の過去や記憶の上を通り越して現れ出てくる何か重要なモチーフや象徴に感応していくことがあるかも知れません。
新たなステップが生まれるとき
当時80歳でほとんど失明状態だったボルヘスは、玉砂利を踏む人々の足音に耳を傾けつつ、何かを比喩に置き変えようとしていたのだそうです。
しかも、ボルヘスは神社の見かけや構造など目に見えない景色を必死に想像していたのではなく、「これを記憶するにはどうすればいいか」というようなことを、ぶつぶつと呟いていて、それはこんな調子だったといいます。
「カイヤームの階段かな、うん、紫陽花の額にバラバラにあたる雨粒だ」
「オリゲネスの16ページ、それから、そう、鏡に映った文字がね」
「日本の神は片腕なのか、落丁している音楽みたいにね」
「邯鄲、簡単、感嘆、肝胆相照らす、ふっふふ‥」
まるで熟練のダンサーが、いよいよ死の間際というところで、新たなステップを生み出そうとしているようではありませんか。
今週のおとめ座は、暗闇の中で踊るダンサーのごとく。あるいは、研ぎ澄まされた感覚の奥から聞こえてくる内なる声に従っていくように、日々を過ごしてみるといいでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
本当に痛切なことは対象化しないと表現できない