おとめ座
体感を味わう
ふさわしい場所に立つこと
今週のおとめ座は、「病廊の不意に岐るる秋の冷え」(安松伸布代)という句のごとし。すなわち、目に見えていなかった感情が体感とともに顕在化してくるような星回り。
一般に、公園のベンチに腰をおろしたりしたときなどに、ふと体の芯へと射し込んで来るように感じられた冷気のことなどを「秋冷え」といいますが、掲句ではそれが病院の廊下で不意に訪れます。
この場合、入院している患者というより、見舞客の心理として捉えた方が意図を汲みとりやすいでしょう。顔をあげず、視線もあわせることなく、事務的に部屋番号を伝えてくる病院の受付を通過すると、同じような部屋が続いていく。伝えられた部屋の番号を追っていくと、不意に廊下が折れ曲がり、さらにその向こうにも病室がえんえんと続いている。
しんと静まりかえった廊下の光景に、入院している相手の病状や経過への不安がむくむくと湧いてきたのか、あるいは、もっと別の極私的な思いや記憶が起き上がってきてしまったのかも知れません。
いずれにせよ、その場所に立たなければきっと味わうことはなかったろう思いが、心臓の鼓動の高まりとともに、作者の心中にまざまざと呼び覚まされたのではないでしょうか。
17日におとめ座から数えて「腑に落ちる感覚」を意味する2番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、頭でひねり出すのではない仕方で自然と湧いてきた予感や思いをしっかりと引き受けていくことが大切になっていくはずです。
舌を使って腑に落とす
複雑な処理をしている器官というとどうしてもまず頭のことばかりだと思いがちですが、おそらく人間のもっている最も混合的な器官は耳か舌でしょう。
例えば、カレーを食べた後にアイスを食べたり、餃子を食べた直後に梅干しを食べたりもできる。どれだけ頑固な保守主義者であっても、舌の混血のスピードにはまったく敵わない。これは理屈ぬきに人間というものがそうできてしまっている訳です。
そしてこのことは「まる」とか「round」とか発音しているときの舌を改めて意識してみると、そこでもやはり理屈抜きに既に舌のかたちが意味そのものを実現してしまっていることが見て取れます。
これは試しに「しかく」とか「square」と発音してみると、舌がかちかち、がちがちしてちゃんと対照的になっていることからもわかるかと思います。頭で考えたり分かったりする以前に、身体の方で丸いものとしかくいものとを区別しているんですね。
ところが、今の私たちはどういう訳か「vision」と言えば「思想」のことであったり、視野とか視点とか、「~して“みる”」など、視覚的な比喩や視覚的な言葉のなかで、知的な物言いを再構成させる傾向にあります。
今週は、そうして普段なんとなく使ってしまっている言葉遣いや思考習慣を“舐める”ように味わい直していくところから、抑圧していた感情や忘れていた思いを取り戻していくことがテーマなのだとも言えそうです。
今週のキーワード
理屈ぬき