おとめ座
成熟の実感
高揚する力としての老い
今週のおとめ座は、「鯉老いて真中を行く秋の暮」(藤田湘子)という句のごとし。あるいは、何らかの形で外部環境からの自立を促されていくような星回り。
作者は国鉄に勤めるサラリーマンでしたが、定年を待たずに年金支給開始まで6年を残して退職し、専業俳人となった人。掲句はその年の秋に詠まれた句です。
鯉は古く中国では堅忍不抜の努力によって「龍門を登り」龍になると言われ、科挙に合格した学者の喩えとしても使われてきましたが、ここではさながらモーゼの‟海割り”のごとく群れをかき分け池の真ん中を行く鯉(こい)に、自分自身の姿、あるいはその理想の姿を重ねているのでしょう。
ただ「老いて真中を行く」とは言っても、それは誰もができることではありません。老いてますます隅へ隅へと追いやられ、卑屈になっていく人も少なくないはず。
それでも、時間は何かを破壊するだけではなく、弱めると同時に強める力を確かに持っていることを、作者は実感とともに知っていたのだと思います。
その意味で、12日(火)におとめ座から数えて「魂の高揚」を意味する9番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、この世界を客観的な愛情を持って見つめるだけの老いの力を自身の中で感じていきたいところです。
知恵の塩を携えて
隠喩的理解の伝統に基づく「錬金術」という心理学の主要な作業の中には、平たい蒸発皿で余分な水分を蒸発させ、乾いた残留物からさらに別の混合物をつくる工程があります。
これは、本来は軽やかで乾いた状態を最上とする「魂」の成分に、あまりに多くの液体が混ざると腐敗しやすくなり、淀んだ気分から逃れることができず、悲嘆と陰気に駆られるうちに、粘り気をもった泥沼のようになっていくと考えられていたという背景を知れば、いささか分かりやすいものととなるはず。
つまり、過去を削って事実を乾燥させ、感情のしがらみを浄化させていくことで、剝き出しの骨や本質だけが残り、それがやがて人生に対する塩辛い洞察を含んだ知恵の塩になっていくものとされたのです。
ことほど左様に、乾いた魂というのは、この世界を客観的に見つめ得るだけのユーモアとウィットを携えているものであり、今週のあなたもまたそうした魂の乾燥工程を経ていこうとしているのだと言えます。
今週のキーワード
遠くから見る時の視野は乾いている