おとめ座
麦刈る乙女として
巻き返しの狼煙をあげよ
今週のおとめ座は、「陰に生る麦尊けれ青山河」(佐藤鬼房)という句のごとし。あるいは、希薄になってしまった自分を大地の古層から掘り起こし、額に汗して豊かさを取り戻していくような星回り。
「陰(ほと)」という言葉には「山間の窪んだところ」という意味もあるようなので、掲句も実際の風景をそのまま詠んだものとも考えられますし、大地を地母神(ガイア)とみなすアニミズム的な神話風景を念写したものとも取れる句。
さらに掲句が詠まれたのが高度経済成長期にあった1960年代であったということも、作品としての味わいを実に深いものにしてくれています。
つまり、世の中が物質的な豊かさを獲得し、以前ほど貧困に喘ぐことがなくなったことで、かえって自己のリアリティーが希薄化したことを作者は敏感に感じ取っていたに違いない。
この句は自分という実存を取り戻さんとする「巻き返しへの意志」の現われでもあり、その意味でいまのおとめ座の方向を同じにする道しるべでもあるのではないでしょうか。
願わくば、うわべだけを整えるのではなく、自分の背後や足元に埋もれたままになっている価値や意味が立ち上がり、自然と実ってくるような巻き返しを図っていきたいところです。
額に汗することの意義
ヨーロッパ社会で魔女狩りが盛んに行われた16~17世紀、科学も魔術も区別されることなく、自然の秘密をさぐる方法として一緒くたに考えられていました。
現在の私たちからすれば、科学者こそ魔女の存在を否定し、魔女狩りの先頭に立つものと考えてしまいがちですが、実際には当時第一級の科学者たちでさえ魔女や魔術の存在を信じていたのです。
近代科学の祖とされる思想家・ベーコンもその例にも漏れなかったようで、
「ベーコンにとって魔術とは、額に汗して発見すべき真理を「安易で怠惰な儀式」によって行おうとするという点でのみ非難すべきものであった」
のだそうです。
つまり、あなたが科学者であれ、魔女であれ、お遍路であれ、サラリーマンであれ、それはここでは大した問題ではないのです。
むしろ「人生とはしょせんこんなもんだ」と「安易で怠惰な」方法に頼ってしまう人間なのか。それともベーコンのように、あくまで人間の不誠実を蹴り飛ばさんと眼を光らせる人間であるのか。
今のあなたにとっても、大事なのはそこなのではないでしょうか。
今週のキーワード
大地を耕し種を蒔く