おうし座
笑みのにじみ出し
春眠の底へ行方知れず
今週のおうし座は、『春眠の底より笑ひかけむとす』(西山ゆりこ)という句のごとし。あるいは、遠い彼方に、限りなく遠いところにながめられていくような星回り。
「笑ひかけむ」の「けむ」は過去の事実についての推量で、「笑いかけたのだろうか」といった軽い疑問を付した表現。
長閑で暖かい春は寝心地よく夜が明けても、なかなか目が覚めないものだが、掲句の場合、ふと目が覚めたときに、なんとなく口元に笑みを浮かべていた痕跡が残っていた。ただ、どんな夢を見ていたのかは、もううっすらとした霧の向こうにぼやけてしまっていっこうに思い出せない。それで、「春眠の底」、すなわち、限りなく遠い彼方へと意識の焦点がぼかされ、ちょうど日食の際の日の光のように行方知れずになって、我を忘れてしまっていたのだということにしておこう、ということなのかも知れない。
いずれにせよ、この句の作中主体がたたずんでいたであろう領域は、明確な境界線や輪郭によって区切られた現実社会(であるとみなで思い込んでいる世界)から逃れきった先にある、茫漠たる情趣空間であり、そこで普通なら存在の深部にひそんで隠れている、何とも言えないなまなましいリアリティに触れた感覚を、「笑み」の痕跡のなかにかすかに感じ取っているのだろう。
これは、笑わされて条件反射的に発動してしまう「笑う」ではなく、おのれの深まったところから内発的ににじみ出てくる「笑み」なのだ。その意味で、4月9日におうし座から数えて「集合的無意識」を意味する12番目のおひつじ座で新月(皆既日食)を迎えていく今週のあなたもまた、そうした春特有のあわいぼんやりとした気分を大切に味わっていきたいところ。
微笑みの爆弾
ここで思い出されてくるのが、アニメ『幽☆遊☆白書』の主題歌として1992年にリリースされた馬渡松子の『微笑みの爆弾』という曲です。その歌詞の中で、
メチャメチャ悲しい時だってふいになぜか/乗り越える勇気とPOWER湧いてくるのは/メチャメチャやさしい人達がふいに見せた/きびしさのせいだったりするんだろうね
メチャメチャ苦しい壁だってふいになぜか/ぶち壊す勇気とPOWER湧いてくるのは/メチャメチャきびしい人達がふいに見せた/やさしさのせいだったりするんだろうね
という風に、他人が時おり見せる意外な優しさと厳しさに触れたことが、自分の生きる原動力になったのだということがくり返し書かれています。こうした歌詞の内容は、独立して自身のレーベルを設立直後に精神疾患にかかり地方の実家へ強制送還されたりなど、幾多の苦難を経験してきた馬渡自身の人生とも不思議にシンクロしているように思います。
今週のおうし座もまた、この曲の歌詞のように、どこかで唇の裏側に隠してある「微笑みの爆弾」を誰かにあげたり、もらったりしていくことになるかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
勇気とPOWERなくさないよ