おうし座
力を抜いたり、別の力を加えたり
ある非意味的な切断について
今週のおうし座は、『たんぽぽの絮(わた)吹いてをる車掌かな』(奥坂まや)という句のごとし。あるいは、延々と続く日常にスッと“しおり”をはさんでいくような星回り。
これが山手線の車掌であれば問題があるかも知れないが、単線の路線であれば、すれ違う列車を待つ間に、長い時間停車していたりする。その間、いったんホームに出て自販機で飲み物を買ったり、背伸びをする乗客もいる。普段からそういう光景を見ている車掌が、ふとホームの端に咲いているたんぽぽを見つけた。
いかにも吹いてくれと言わんばかりに風に揺れる絮(わた)に意識がもっていかれた拍子に、いつの間にかたんぽぽを摘んで、絮を吹いてしまっていた。そのなんとも子どもっぽいしぐさに、作者は深いところで共感を抱いたに違いない。そして、そんな車掌とのかすかなつながりの中で、春ののどかさを味わっている。
ここで留意しておかなければならないのは、車掌はその一連のしぐさを、日常的な業務の延長線上で行った訳でもなければ、恐らくはここらで一息つこうと意図して行ったのでもないということ。むしろ、どんな意図とも無関係な非意味的な切断がそこにたまたま走ったのであり、それを感じて作者は「いる」という口語体の代わりに「をる」という文語体を選んだのかも知れない。
3月25日におうし座から数えて「執着の断ち切り」を意味する6番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そうしたある種の特別な文脈の切り替えにおのずと入っていくだろう。
読書の効用
本を読む醍醐味というのは、しばしば麻薬のトリップに似ている。それについてかつて寺山修司は、「想像力による出会い、旅、抽象化、価値の生成といったものが、「それ自体」の力を大きく超えてゆくことになるから」(『青蛾館―さかさま博物誌―』)だと述べた。
「それ自体」とは、実際に書かれていた文字列のことであり、あるいは単に作者が本の中で言わんとしていたことだとも言える。そこに読者が想像力によってみずからの体験や感情、思いを浸し、織り込み、交わらせていく働きかけを通して、まったくの別物へと変容を遂げていくのだ。
当然、読者自身もそれに合わせて変容していくから、読書の効用はまずもってその変身作用にあるのだと言える。ただ、それは思い通りの変身というより、一種のギャンブルでもあるから、そのまま事件へと発展してしまうことだってありえる。
人間は欠落だらけの真実しか持ち得ないし、本だってとても小さな真実の断片に過ぎないが、それでも読書はいつのまにかべつの真実を与えてくれるのだ。その意味で、今週のおうし座もまた、そうした一種の融合体験を欲していくだろうし、そこに自分を賭けてみたくなるはず。
おうし座の今週のキーワード
想像力を通して現実を変容させていくこと