おうし座
狂気を言葉で示すこと
必要な狂気
今週のおうし座は、ドン・キホーテの冒険のごとし。あるいは、つまらない常識の代わりに物語の言葉で身を包んでいこうとするような星回り。
身も心も倦怠感に襲われてすべてのやる気が起こらず、家の中でさえ妊娠中のカバのようにのろのろとしか歩けない…。もし今あなたがそんな状況にあって、この不活発な状態を反転させるエネルギーを欲しているのなら、セルバンテスの『ドン・キホーテ』のことを思い出されたい。
主人公のドン・キホーテは寝るのも忘れて騎士物語を読みふけった結果、みずから諸国を遍歴する騎士になりきって、さっそうと冒険に出かけていく。そこでは、平凡な道端の旅籠は銀の尖塔が立ち並ぶお城へと様変わりし、巨人の群れに見立てられた風車は槍を向けられる。彼は明るく元気はつらつにあらゆることにのぞみ、従者の忠告もどこふく風。
そもそも遍歴の騎士の生涯には数々の危険と不幸がついてまわるものだが、また、それゆえにこそ、遍歴の騎士は今すぐにでも国王や皇帝にでもなれる立場にあるのだ
そしてそんなドン・キホーテと冒険を続けるうちに、従者のサンチョ・パンサの心境にも変化がおきてきます。
誰もが一生の終わりに、いやでも迎えなきゃならねえ死ってやつをのぞけば、どんなことにも救いの手だてはあるもんだ
もちろん、そうした冒険はそれ自体が一つの妄想であり、狂気にすぎません。ただ物語の言葉はときに現実の社会とぶつかっていくための強力な武器となり、生きる糧にもなるのです。その意味で、2月24日におうし座から数えて「生命力の活性化」を意味する5番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、まず妄想や想像力を手だてに自分なりの冒険を試みていくといいでしょう。
生き方の問題としての「ゴシック」
「ゴスロリ(ゴシックアンドロリータ)」という言葉とともに、どこか現実離れしたロマンチックでファッショナブルなイメージがどうにも先行しやすいゴシックという言葉ですが、そこには本来、パンクとも通じる現代の合理性への反発が込められていました。
例えば文芸評論家の高原英理は、「ゴシック」と「少女」をキーワードに編んだアンソロジー『ガール・イン・ザ・ダーク 少女のためのゴシック文学館』の巻頭に付した文章の中で、「ゴシック」を次のように定義づけてみせました。
それは近代の諸思想に付随して現れた“中央からの”“優勢な”“教条的な”“強圧的な”“独善的な”言説の暴力を批判する“個の抵抗”の拠り所の一つであり、不利な側・弱い側・マイナーな者たちに、ある美的な誇りを提供してきた
こうした「ゴシック」が主義や思想である以前に、息苦しいシステムの軛(くびき)から自由になるための「生き方」の問題であるという高原の指摘は、そのままドン・キホーテが巨人の群れに向けた槍が彼にとってどんなものであったかという話とも重なってくるように思います。
今週のおうし座もまた、たとえどんなに非合理的であったとしても、これだけは譲れないのだという言葉や武器を手に取って、自分なりの抵抗戦を戦っていくべし。
おうし座の今週のキーワード
生き方はおのずと言葉に出るし、言葉は生き方を支えていく。