おうし座
禅機の瞬間
音楽の始まり
今週のおうし座は、『土堤を外れ枯野の犬となりゆけり』(山口誓子)という句のごとし。あるいは、身近な対象物の決定的な変化をしかと捉えていこうとするような星回り。
素手で生命をつかまんとする、作者の興した『天狼』の「根源俳句」運動を象徴するような一句。意味的には「土堤(どて)」の犬から、「枯野の犬」への変容の発見にねらいがあり、記号化するとすれば<A→A´>とも書き表せるはず。
それは作者の働きかけや介入によって起きた変化ではなく、あくまで観察の対象となる「犬」に“不意”におとずれた変化であり、自然発生的な“もののはずみ”を捉えたもの。すなわち、必ずしも坐禅を伴わない禅の境地、すなわち無我の境地を体感するときの心の動き(=禅機)のようなものでもあり、それはジョン・ケージの言葉を借りれば「ポットの湯が湧いた瞬間だっていい。寿司の肴の色が変わるか変わらないかの分かれ目だっていい。広重の雨がポツンと降ってきた矢先だっていい」。ひとつの俳句であれ、音楽であれ、霊感の宿った作品というものは、得てしてそうした瞬間に半ば出来上がるものなのです。
しかし、そうしたかすかではあれど、決定的な変化というものを、ほとんどの人は見逃し、気付かずにスルーしてしまうもの。その意味で芸術とは何よりもまず「発見」の営みなのだと言えます。
2月3日におうし座から数えて「対象との関わり合い」を意味する7番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした発見を通して自分自身がこれまでとは別物へと変わっていく予感をつかんでいくべし。
柔らかい機械の振動
最近ますますあらゆることがわかりやすく、明確に語られ、誰も彼もがポジショントークに徹しているようなディストピアへ、ますます社会全体が一丸となって突き進んでいるように感じられますが、そういう流れに反するための芸術や歌や教育であるとして、もしそこで魂ということを前提に置くのなら、まず第一に「ここではない異界」を作りだすことを考えなければいけないだろうと、そんな風に思います。
例えば、夜中に道で不意に出くわすノラ猫は、それは見事に異界を作りだします。社会の大人達からすれば、何でもないような意味の空白地帯である公園の一角に、猫がたたずむ。すると、風はもう静まって、ノラ猫は柔らかい機械の振動へと変わり、いよいよ空気を震わせて、一瞬の内に月光を冴え冴えとしたブルーに様変わりさせてしまう。
そんな光景を垣間見たときの、「とんでもないものを見てしまった」という驚きこそが、魂をことほぐ最高の贈り物であり、そのための余地や余白を作りだしていくことこそが、魂に対する敬意の払い方なのではないでしょうか。
今週のおうし座もまた、そんな魂への気づかいを踏まえた上で、では自分ならどんなふうに異界を作り出していけるのか、と考えてみるべし。
おうし座の今週のキーワード
従順な犬と、マイペースな猫