おうし座
聖域に浸る
月光、池、鯉
今週のおうし座は、『深吉野や月光に鯉ひるがへり』(上田日差子)という句のごとし。あるいは、心の奥深くで起きている“反応”に気が付いていくような星回り。
作者は師でもあった俳人の父の急逝後、36歳で自身の結社&俳誌を創刊・主催した人で、掲句はその12年後に発表された句集『和音』に収録された一句。
同じ句集に「父と師の声をききわけ秋の風」という句もありましたが、おそらく作者にとって俳人として、そしてひとりの人間としての歩みに行き詰まるたび、父の言葉が頭をよぎってきたのでしょう。
古来より多くの文人の句や歌に詠まれ、宗教的な祭礼や修行の場ともされてきた「深吉野(みよしの)」を措辞におき、山中の清水を引いた池に月光がそっと差し込む中、ばしゃりと音を立てて青黒い鯉がひるがえる。
骨太な写生句ではありますが、一方でこの「鯉」とは、すでに先祖となった父の記憶に浸りつつ、そこから自分なりに意図を受け取り、何ごとかを新たに紡ぎ出さんとしている自分自身の姿でもあったのではないでしょうか。
そして、誰の心のなかにも、心の奥底には、こうした先祖や家族的記憶とのつながりを再確認させられるような聖域が存在しているはず。その意味で、9月29日におうし座から数えて「先祖の水」を意味する12番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分でも思いがけない「ひるがへり」を経験していくことができるかも知れません。
校閲室の静謐にして神聖な時間
作家の小川洋子さんが、かつて新聞のエッセイのなかで、ある校閲部署を見学したときの印象を「神聖」と表現していました。
たしかに、ヌードグラビアのキャプションなんかであっても、校閲室ではみなお坊さんのように黙って、笑わず、真摯にゲラを読んでいて、時おり電動鉛筆削りのじょわーっという音が響くばかり。
でも、書き手だけでなくこうして他人の書きものに粛々とツッコミを入れていく校閲者がいてくれるおかげで、売り物としての本のクォリティーは保たれ、ひいては文化が文化であり続けることができているのだと思うと、あながち先の印象は単なる印象をこえた、本質をついた鋭い直観であるように思われてきます。
そして、掲句の作者にとっての父の記憶に浸る時間というのも、それと同じくらい神聖なものであったはず。今週のおうし座もまた、自分自身がどうあるかということよりも、自分のことを思ってくれている誰かとのつながりをどれだけ「神聖」なものとして感じられるかが問われていくことでしょう。
おうし座の今週のキーワード
黙って、笑わず、真摯に向き合う