おうし座
恬淡とした至福の追求
井之頭五郎の実践
今週のおうし座は、食べる瞑想としての『孤独のグルメ』のごとし。あるいは、豊かさの感覚を享受するのに不必要な、一切の夾雑物(きょうざつぶつ)を排除していこうとするような星回り。
『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎は、輸入雑貨の仕入れや販売の仕事をしていて、大抵は客先に出向いた先で午前の打ち合わせを終え、街へ踏み出したタイミングで発せられる「腹が減った」という独り言を合図に、彼の「食べる瞑想」は始まっていきます。
それまで慌ただしく動き回り、取引先の一挙手一投足へ細やかに気を配っていたのが嘘のように、そこからは一転して、自身自分との対話を重ねつつ、内的な感覚を研ぎ澄ませ、どの店に入って、何を頼んだら、美味しいものが食べられるのかということに、全神経を集中させていくのです。
「ほー、いいじゃないか」「こういうのでいいんだよ、こういうので」といった彼のなんとなく放った独り言が、ネットミームのように各所で引用されたりパロディ化されたりするのも、ひとえにそうした瞑想的な過程をへて、一切の嘘がない状態で発された言葉だからでしょう。
まるで「今日の一品」をあたかも「人生最後の食事」のようなテンションで選びに選び、他人との会話やテレビやスマホなどという一切の夾雑物を排除して、体内に取り込んでいく。それは単なる美食の悦びというより、宗教的な儀式に近い。しかも、井之頭は人里離れた非日常でそれをやるのではなく、あくまで業務のあいまや一仕事終えた後に、すなわち日常のただ中にこそ、至福を打ち込んでいく。ここにおいて、『孤独のグルメ』の美学は際立っていくのではないでしょうか。
8日に自分自身の星座であるおうし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、世間や他人が何と言おうと、自分自身の思い描いた至福に近づいていこうとするような星回り。
ホッファーの実践
10代で天涯孤独となり、放浪しながら職を転々としつつ、40歳でやっと港湾労働者として定職につきながら、大学で講義するまでの社会哲学者となったエリック・ホッファーは、仕事にやりがいなど求めませんでした。井之頭五郎と同じ様に、働いた後に、自分がやりたいことをやる。ワークライフバランスなんて言葉がもてはやされる何十年も前から彼はそう考え、みずからそうした実践していたのです。
ホッファーにとって労働は生活を営むための手段でしたが、と同時に、そこで出逢った人びとや経験を通して、自身の思索を深くするための糧ともなりました。そして一緒に働く仲間の働きぶりや愛すべき人間性を観察するなかで、社会不適応者の弱者にこそ特異な役割があることに気づいたのです。
弱者に固有の自己嫌悪は、通常の生存競争よりもはるかに強いエネルギーを放出する。明らかに、弱者の中に生じる激しさは、彼らに、いわば特別な適応を見出させる。弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えているのだ。(『エリック・ホッファー自伝―構想された真実―』)
もちろん世俗や常識に適応できなかったホッファー自身もまた、ひとりの「弱者」でした。だからこそ彼は、真面目に淡々と働いては、読書と思索に打ち込み、そうした生活実践の果てに、独自の社会哲学を築き上げていったのです。今週のおうし座もまた、あらためてこの世で自分がどんな役割に徹していくべきかを再確認していくべし。
おうし座の今週のキーワード
「弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えている」