おうし座
花吹雪の下で
命のきわ
今週のおうし座は、『散る桜 残る桜も 散る桜』(良寛)という句のごとし。あるいは、生と死はどこまでも隣り合っているものなのだと改めて実感していくような星回り。
いつも子供らと無邪気に遊んでいたという良寛和尚の「辞世の句」といわれている一句。今まさにみずからの命が尽きようとしているその時に、たとえ仮にこれ以上生き永らえたとて、それもまた散りゆく命に変わりはないのだ言っているのです。
この占い記事を読んでいる人に、もうすぐ自分が確実に死ぬであろうことを予感している人はまずいないと思いますが、それでも「あと何回こうして平和な気持ちで桜を見られるだろう」と無常感に駆られたことのある人は決して少なくないでしょう。
「散る」と「さくら」のリフレインのなかで、オセロのように生と死がひっくり返されていく掲句を口ずさんでいると、どこか良寛和尚と一緒に花吹雪の下で遊んでいるような気持ちになってくるから不思議です。
4月13日におうし座から数えて「境い目」を意味する9番目のやぎ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、やがて散りゆくさくらのひと房となったつもりで自身に残されたいのちの重みをはかり直してみるといいでしょう。
平出隆の『猫の客』
例えば、ある日ひそかに稲妻小路と呼ばれる界隈に突然あらわれ、はじめ隣家の飼い猫となった後、庭を通ってわが家を訪れるようになった仔猫チビについて、作者の平出隆は次のように描き出しています。
小さな仄白い影が見えた。そこで窓を開け、冬の暁に連れられてきた来客を迎え入れると、家うちの気配はひといきに蘇った。元日にはそれが初礼者(はつらいじゃ)となった。年賀によその家々を廻り歩く者を礼者という。めずらしくもこの礼者は、窓から入ってきてしかもひとことの祝詞も述べなかったが、きちんと両手をそろえる挨拶は知っているようだった。
チビは静かに境をくずし、作者はその在りし日の思い出を繊細なエクリチュールで紡いでみせた訳ですが、そうして小路に流れた光に、どこか心が洗われたような気分になった読者も少なくないはず。
今週のおうし座もまた、いつの間にか心に堆積していたこの世の塵(ちり)や穢れ(けがれ)をそっと洗い流していくだけの機会をきちんと作っていくべし。
おうし座の今週のキーワード
日常にふわりとした繊細さと柔らかさを取り戻していくこと