おうし座
トランポリンの感覚
やさしさに包まれて
今週のおうし座は、『トランボリン春の空へと子を抛(ほお)る』(隅田享子)という句のごとし。あるいは、心身の余計な緊張を溶かしていこうとするような星回り。
「トランボリン」の柔らかな感触と「春の空」の明るさとが通じ合うことで、「子を抛る」という乱暴な表現も、どこかふんわりと受け止めてもらえるような安心感とセットとなるため、むしろ遊び心や躍動感をもたらす句のアクセントとなっている。
私たちは手元にあるものが大事であればあるほど、決して喪うまいとしてギュッと掴んだり、抱えこもうとするものですが、ここでは「子」だけではなくてそれを「抛る」自分自身もまた柔らかに包まれることで宥められ、和らいでいるように感じます。
その感じが何かに似ているとしばらく考えていたのですが、幼児がいつも家で肌身離さずにいるために、ボロボロに汚れてしまっているブランケットをやっと洗濯することを受け入れられたときのような、ある種の脱力感に近いのではないでしょうか。
3月21日に春分、そして22日におうし座から数えて「一体感」を意味する12番目の星座であるおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、安心して身を委ねていく体感をじんわり深めていくことになるでしょう。
無への通路
「安心して身を委ねていく」ということは、言い換えれば、「自分の中に無への通路を作る」(中沢新一)ということでもあるのかも知れません。
人間は、何かを所有したり、自分の地位や立場を獲得していくと、とたんに世界を小さくして所有しているような感覚を抱き始め、やがて天然や自然のままに自分を任せるということがよく分からなくなってしまう。
例えば、掲句のように大事なものを抛りなげると言っても、クレカや預金通帳、定住生活そのものを投げ捨てるなんてことは、ほとんどの現代人には無理な話でしょう。ただ、一方でやはりどこかで人間死ぬときはひとり、生まれてくるときもひとりという感覚を持っておかないと、いのちというものが本来どのように存在しているものなのか(一切無所有)、分からなくなってしまうのだと思います。
「トランポリン」も最近ではすっかり日常では見かけなくなってしまいましたが、時おりにでもあのわが身をそこに抛るような感覚を思い出し、身軽な自然体ということを忘れないでおきたいものです。
おうし座の今週のキーワード
人間死ぬときはひとり、生まれてくるときもひとり