おうし座
変わらずからっぽな私
衣をはいでいくこと
今週のおうし座は、『江戸じまぬきのふしたはし更衣』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、いつまで経っても変わらない自分自身を再発見していくような星回り。
「更衣(ころもがえ)」は夏の季語で、作者の生きていた江戸時代は5月頃が更衣の季節と定められていましたが、現代では6月前後にまでずれてきています。
北信濃の田舎出身である作者は、しがない職業俳人であり、肩身の狭い居候の身であるというコンプレックスもあって、長きにわたって江戸の洒脱な雰囲気になじみきれないという思いを抱えてきたのでしょう。
しかし、45歳を迎えるある夏の日に、いつのまにか江戸という都会の風に染まってしまった自分の姿にふと気が付いたとき、反射的な自己嫌悪の後から、染まっていなかった頃の自分が懐かしいなという思いがじわじわと湧いてきたのかも知れません。
いくら装いを洗練させ、上手に体裁を整えたとしても、打ち消すことのできない田舎者としての本質が備わっており、ここ(江戸)に自分の居場所はないのだという思いは、作者の表現者としての原点であり、向き合う相手に対していつもある種の鋭敏な神経を働かせていた由縁でもあったように思います。
その意味で、30日におうし座から数えて「実質」を意味する2番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、表面的な部分ではなく自身の深層に横たわっている「自分らしさ」へと立ち返っていくことがテーマとなっていきそうです。
器としての自己
いつまでも変わらない深層の自分ということを突きつめて考えてみることは、多くの詩人にとって詩作に不可欠な営みであったように思います。例えば、インドの大詩人タゴールの詩集『ギーターンジャリ(「歌の捧げもの」の意)』には、次のような一節があります。
あなたは私を限りないものにした。それがあなたの楽しみなのだ。この脆い器を、あなたは何度もからにして、またたえず新鮮な生命を注ぎ込んだ。この小さな葦笛を、あなたは山や谷に持ち回り、永遠に新しいメロディーを吹いた。あなたの手の不死の感触に、私の小さな心臓は喜びのあまりに限度を失い、言いようのない言葉を叫ぶ
タゴールが肉体を持って日常を生きる、ひとりの平凡な人間であると同時に、偉大な詩人となりえた秘密は、ひとえに「からっぽの器」としてのセルフイメージを失うことなく、徹底的に保ち続けることができた点にあったのではないでしょうか。
そして今週のおうし座もまた、変わりゆく自分自身とは対極にある、いつまでも変わることのない「からっぽさ」や「器としての自己」というイメージをいかに研ぎ澄まし、それが満たされていく感覚を掴んでいけるかが問われていくのだと言えるでしょう。
おうし座の今週のキーワード
天の恵みを受け取っていく