おうし座
廃墟と少女とセカイ系
社会を経ずに救うため
今週のおうし座は、セカイ系アニメの一見か弱そうな少女のごとし。あるいは、他ならぬ「イカロスの翼」を背負っていこうとするような星回り。
使途襲来であれ最終戦争であれ、アニメ内で起こる世界的な危機に立ち向かう彼女らは、大人になって「家庭の天使」におさまっていく代わりに、友人や恋人との感覚的に触れる狭い日常からこの世界全体の行く末をみずからの手で左右可能な存在へと一足飛びに駆け上がっていきます。
もちろんそれは手放しで称賛されるような「成功」や「大団円」などの無邪気な結末に向かう訳ではなく、むしろ現実世界の拒絶と破壊に結びつきかねない危険なジャンプアップではあるのですが、こうした個人的な実感と抽象的普遍的な世界状況とを直接的に媒介しようとする試みは、じつは古来より多くの哲学者や神秘主義者が人生を賭けて取り組んできた知的営みとも重なっていくものでもあります。
古代ギリシャ神話の「イカロスの翼」は、今日しばしば人間の生み出す技芸への過信への戒めとして用いられますが、イカロスが飛ぶことに夢中になるあまり墜落し死んでしまう前に、みずから人工の翼を背負って飛び立ち、閉じ込められていた迷宮を脱出してみせたことがいかに彼自身にとってだけでなく、周囲の人間にとっても救いとなったということも忘れてはなりません。
その意味で、23日におうし座から数えて「境界線上」を意味する11番目のうお座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、内部に閉じこもるのでも、外部にかかりきりになるのでもなく、両者の境目に自分らしさを失わない仕方で留まり続けることができるかどうかが問われていくでしょう。
廃墟を背負う
廃墟というものを魅力的に感じさせる要因には、過去から遠い未来へと突き抜ける時間的感覚やその独特のスケール感がありますが、かつて日野啓三は次のように述べました。
私にとって廃墟に立つことは四十億年という遥かなる帰郷の旅であり、同時にめくるめく未来へと連なるコスミックな力を実感し直す劇である(『廃墟―鉱物と意識が触れ合う場所』)
これは例えば時間的な広がりの表現に限界のある絵画ではもたらすことのできない体験であり、「コスミックな力」の感受は空間的なスケールの広がりによって初めて可能になるのだと言えます。
また、日野は「廃墟は始点であって、終点ではない。そこで立ち止まり立ちつくしてがならないのである」とも述べており、これは彼の戦争後の焼け跡体験から得た境地なのかも知れません。
その意味で、今週のおうし座もまた、「社会」などという曖昧で、不確かなものの代わりに、ひとつ「廃墟」を背負ったつもりで過ごしてみるといいかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
未来への郷愁に駆られて