おうし座
ひらいてむすんで
不思議な宮殿クノッソス
今週のおうし座は、クレタ島のクノッソス宮殿のごとし。あるいは、友好的な基礎に基づき、外部に開かれた付き合いを展開していこうとするような星回り。
ギリシア神話に出てくる迷宮(ラビュリントス)のモデルがクレタ島のクノッソス宮殿であり、ヨーロッパ最古のミノア文明が紀元前2000年紀にここを舞台に華開いたと考えられていますが、その実態は依然として謎に包まれています。というのも、50×25メートルの中庭を取り囲むようにして、祭祀施設、工房、倉庫、劇場、レストランなど、さまざまな用途の諸室が複雑に展開しているこの宮殿は、宮殿にも関わらず建物が常に外部に開放されており、周囲を取り囲む一切の防御施設を欠いていたのです。
当時のミノア文明の王権はエーゲ海のほぼ全域を支配下に収めていたため、防御の対象となる外敵がいなかったという説もありますが、決してそれだけではないはず。考古学者の勝又俊雄氏はこの遺跡を宮殿ではなく、礼拝所複合体だったのではないかという説を唱えていますが、これは世界的に見ても例外的に古代日本の都城に城壁がなかった不思議にも通じているように思います。
また、クノッソス宮殿の中庭は外部から直接に進入することができるだけでなく、建物の諸室への動線の起点となる中央広場のようなもので、ミノア文明後期に中央集権化するまでは、宮殿に接して市民の公共空間が設けられていたため、上記の施設は王族だけでなく、広く市民に解放され、当時のクレタがいかに平和的で友好的であったかが分かります。
2月1日におうし座から数えて「個の開示」を意味する10番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、世間と隔絶した迷宮としてではなく、ひとつの公共空間として機能していく自分を意識していきたいところです。
グレゴリウスの奇跡
トーマス・マンの小説『選ばれし人』には、近親相姦から生まれ、自身もまた再会した実の母と結婚するというオイディプス王と似た境遇のグレゴリウスという人物が登場します。彼は、みずからの罪(明らかに彼の責任ではないが)をあがなうために湖の真ん中にある島で暮らすことを決意するのですが、食べ物が十分に取れなかったために、17年にも及ぶ島暮らしの中で、なんとハリネズミほどの大きさに縮んでしまったのです。
この主人公は“人間嫌い”の象徴であり、人と距離を置きたいという心理の奥に、自分自身に向けられた憎しみを隠し持っていましたが、物語はここから急転します。ローマ教皇が亡くなり、ふたりの老人が啓示により、次の教皇は湖の真ん中の島にいると知り、小さくて剛毛の生えたグレゴリウスにひどい嫌悪と混乱を感じつつも、陸へと連れ出す運びとなったのですが、ここで奇蹟が起きます。
グレゴリウスが「汝を許す」という言葉を自分自身に向けて唱えると、陸にあがるやいなやもとの人間の姿となり、史上最も素晴らしい教皇となったと言うのです。その意味で、今週のおうし座もグレゴリウスと同様、自分自身を許し、受容する勇気をしぼり出すという大きなテーマに直面していくことになるかも知れません。
おうし座の今週のキーワード
人間嫌いをほぐす