おうし座
反語的空間としての自室
利休の大胆不敵
今週のおうし座は、利休のつくった究極の茶室のごとし。あるいは、少なさや狭さを通して豊かさを感じ直していくような星回り。
建築家のミース・ファンデル・ローエが提唱した「less is more(少ないことこそより豊か)」という考え方は、茶道の四畳半にも通底しています。四畳半のもととなったのは、13世紀の鴨長明の『方丈記』で、これはできるだけものを持たず、ひっそりと暮らすことに美学を見いだした最初の書物でした。
ミースの考えはときに「less is bore(少ないことは退屈)」などと揶揄されもしましたが、何もない小さな空間こそ、何にも代えがたいほど豊かであるという感覚は、その前後に大きな空間や、ものがたくさんあるという経験との比較に基づく相対的な感覚なのかもしれません。
千利休は「less is more」をさらに一歩推し進め、四畳半ならぬ二畳の茶室をつくってしまいました。そこは狭いばかりでなく、真っ黒に塗りつぶされ、完全に壁に囲まれた密室であり、まさにブラックホールのような空間です。これは空間に極限の狭さを与えることで、内面的には無限をつくり出す、究極の相対感覚効果と言えるでしょう。
10月6日におうし座から数えて「内省と調整」を意味する6番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの仕方で快適さを追求していきたいところです。
サミュエル・ベケットの<部屋ごもり期>
アイルランド人の作家ベケットは、40歳になろうかという1946年頃、本人がのちに<部屋ごもり期>と呼んだ集中的な創作活動期に入り、それから数年のあいだに代表作『ゴドーを待ちながら』を含めた彼の業績の中でも最も優れた作品群を書き上げました。
彼はその時期の大半を、世間と隔絶した自室で過ごし、ひたすらおのれの内なる悪魔と向きあい、心の動きを探ろうとしたのだそうです。どうして彼はそうした特殊な生活を始めたのか。彼の評伝によれば、それはあるときふとひらめいて始まったのだと言います。
深夜にダブリンの港近くを散歩していた時、自分が冬の嵐のさなかに、ふ頭の端に立っていることに彼は気付いた。そして、吹きすさぶ風と荒れ狂う水にはさまれて、とつぜん次の事実を悟った。
自分がそれまでの人生で、あるいは創作で必死に抑え込もうとしていた暗闇は、自分の目標とも一致せず、実際まるで注目されることもなかったけれど、じつはそれこそが創造的インスピレーションの源なのだ、と。
今週のおうし座もまた、かつてのベケットのように、これまで抑え込んできた魂の暗い側面こそが自分の最も優れた側面なのだということを受け入れていくことが、大きなテーマとなっていきそうです。
おうし座の今週のキーワード
道なき道を進むため