おうし座
豊かな味と深い孤独
アウレリウスの場合
今週のおうし座は、M・アウレリウスの『自省録』の一節のごとし。あるいは、存在神秘の妙味を一瞬めざめて味わっていくような星回り。
プラトン以来の理想とされた「哲人君主」の実現例と見なされた2Cのローマ皇帝であり、ストア派の哲学者でもあったM・アウレリウスが、戦地でも書き続けた日々の備忘録である『自省録』に次のような一節があります。
たとえ汝が三千年、いや三万年生きようとも、誰もいま生きている生以外の生を失うことはなく、いま失う生以外の生を生きることもない(中略)最も長い生涯と、最も短い生涯とは、それゆえ、同等(中略)万物は流転するが、おなじ軌跡を繰り返しているのであり、見者にとっては、それは百年みていようと二百年みていようと、永劫に同じことだ。
無限の長さのフランスパンを想像してみるといいかも知れません。その全体を食べ切ることはできなくても、パンを一口食べただけでも、「味」という点では、その全体を味わったことと同等と言えるのではないでしょうか。問題があるとすれば、それはむしろ「一口しか味わってないから」と、瞬間や短い今を単なる通過や過程として過小評価することの方にあるように思います。
9月7日におうし座から数えて「喜び」を意味する5番目のおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、長く続くものやことよりも、短く鮮烈な<味わい>にこそ集中していきたいところです。
リルケの場合
古今東西の詩人や宗教家たちは、深い<味わい>すなわち真に美しいもの、善きもの、価値あるものは、深い孤独からしか生まれないと、くりかえし説いてきました。現では孤独は彼らが言及してきたものよりもずっと貧しいものになってしまいましたが、本来それはとても豊かなものだったように思います。
例えば、20世紀における最も優れた詩人のひとりであろうライナー・マリア・リルケは、真に愛を育てるのは孤独で、恋する二人はお互いに孤独に耐えることで初めて、相手に対する愛を純粋に大きく育てていくことができる、と述べていました。
リルケは愛のない両親のもとに生まれ、陸軍学校の寄宿舎へ幼い頃から入れられて、人生の始まりにおいて孤独地獄を味わい尽くした人でしたから、これは何の不自由もなく幸福に育った人の寝言などでは決してなかったはずです。
今週のおうし座もまた、みずからの孤独に耐え、孤独を見つめることを通じて、少しずつでも孤独を豊かにしていくということを身をもって実践されてみるといいでしょう。
おうし座の今週のキーワード
孤独にしかと根をおろす