おうし座
集合的成果としての個人ということ
隠された生命力の源泉
今週のおうし座は、交尾する蛇のごとし。あるいは、地下水のように自身の表面から見えないところで脈々と流れ続けている衝動の奔流に拍車をかけていくような星回り。
田口ランディの短編集『蛇と月と蛙』の一つに、ある女性がたまたま子供の頃に見た二匹の蛇を思い出して、次のように語るシーンが出てきます。
お正月に神社にお参りに行くでしょう。そうすると“しめ縄”が張ってありますよね。あのしめ縄がね、そっくりなんです。交尾していた蛇の姿に。もう、うり二つ。だから、しめ縄を見ると、どうしても蛇の交尾に見えてしまうんです。学術的なことはわからないけど、しめ縄のルーツは蛇なんじゃないでしょうか。(中略)あの姿はほんとうに異様だった。異様なんだけど、なんていうか、すごく切実な感じで、胸苦しいほどだった。
そして、女性の言葉は著者の考えを代弁するかのように、こう続くのです。
「生き物は、淫らでけなげだなあと思いました。でもきっと、神様の目から見たら、人間も同じように淫らでけなげな、生き物のひとつかもしれないですね」
民俗学者の吉野裕子によれば、縄文時代の人々は蛇に「生命力の旺盛さ」を見て取り、祖先神にまで崇めていったのだと言いますが、実際にヘビの交尾は種類によって時に20時間以上にも及ぶことがあるのだそう。
10日におうし座から数えて「遠い遠い遺伝的記憶」を意味する12番目のおひつじ座で火星が逆行に転じていく今週のあなたもまた、自身の肉体やその奥底に宿っているエネルギーの巨大さに改めて気付き、掘り起こしていくことが一つのテーマとなっていくでしょう。
「色は匂へど散りぬるを」
日本語の仮名文字(ひらがな、カタカナ)を母音に基づいて縦に五字、子音に基づいて横に十字ずつ並べた「五十音図」の出来上がったプロセスを見ていくと、平安時代にその原型ができて、それを江戸時代中期までに完成していくんですが、その立役者たちというのは真言のお坊さんなのです。
50音すべてを重複させずに使って作られた「いろは歌」、例えば冒頭の「色は匂へど散りぬるを」は「香りよく色美しく咲き誇っている花も、やがては散ってしまう」といった意味ですが、これは日本語というのが真言宗の僧侶たちの編集作業の成果であり、「諸行無常」などの涅槃経の教えが既に溶かし込まれて出来上がったものであることが分かります。
つまり言葉というものは、それを扱う私たち自身と同じように、決して安定したものではなく、つねに揺れ動き、新旧の時代がたえず交わり続けているかのように存在しているものだということ。
今週は、そんな風に自分自身や日常的に触れているもののなかに歴史的蓄積を見出し、どんな影響のもとに現在の自分があるか、その痕跡を探ってみるといいでしょう。
今週のキーワード
どんな人生にも縦糸がある