さそり座
ぢっと手を見る
菊と人間
今週のさそり座は、「夜の菊や胴のぬくみの座頭金」(竹中宏)という句のごとし。あるいは、理想と現実のはざまで引き裂かれつつも、それでも強く生きていこうとするような星回り。
「座頭金(ざとうがね)」とは、「江戸時代,盲人の行なった高利の貸金をいう(広辞苑)」らしい。つまり、どうしても自分では金の工面ができなくなって、ついに最後の手段に手を出してしまったということだろう。
当然、一時的に「胴」にはたんまりお金が入り、ふところに「ぬくみ」は戻った。けれど、それは決して清廉潔白の金ではなく、高い“借り”と引き換えだ。その後ろめたさが、夜の闇のなかで凛として光る「菊」の花を目にしたときに、どうしようもなくせり上がってきたという訳だ。
けれど、ほかの生き物を殺して食べて生きている以上、この世で完全に清廉潔白な人間など初めからいやしない。そうであればこそ、いずれそれなりの豊かさをこの世に還元するまで、自分は死ねやしないのだ、と決意を新たにできるはず。
今週あなたは、そうして生の一段深いところへと下りていくことになるでしょう。
「無への通路」を開く
言い換えてみれば、それは「自分の中に無への通路を作る」(中沢新一)ということなのかもしれません。
人間は財産を所有したり、地位を獲得していくと、とたんに食いつ食われつという根源的な生命感覚を見失って、やがて生き物としての本能が壊れていきます。
ですが、どこかでこの世界に生かされて存在しているんだという生命感覚を持っておかないと、いのちというものがどうあるべきか、分からなくなってしまうのだと思います。
例えば山口誓子に「蟋蟀(こおろぎ)が深き地中を覗き込む」という句がありますが、時おりにでも、かくありたいものですね。
今週のさそり座へのキーワード
根源的な生命感覚