さそり座
カラー・オブ・ライフ
今のさそり座:小林一茶の場合
今週のさそり座は、中年に入ってから、自分の肉声を句に込めるようになってきた小林一茶のごとし。あるいは、色彩の変化を自身に感じていくような星回り。
江戸時代の三大俳人のひとりである小林一茶は、日常から生まれた感情を主題に、庶民的な句を大量につくりだしたことで知られていますが、40歳を過ぎたあたりから句が明らかに変わっていきます。
かなり露骨な貧乏句を作るようになったり、奇妙な変わり様を見せたりするようになって、長年の庇護者たちの首をかしげさせた。いい変化なのか、悪い変化なのか判別がつかなかったのです。
例えばそうした変化以前には、
「秋寒むや行先々は人の家」「秋雨やともしびうつる膝頭」
など貧を詠うにしてもどこか慎ましく哀れさを醸していたものが、
「秋の風乞食は我を見くらぶる」「梅が香やどなたが来ても欠茶碗」「年の市何しに出たと人のいふ」
などという句がごろりと出てくるようになった。
こうした変化について藤沢周平の『一茶』では、夏目成美(なつめせいび)をして次のように語らせています。
「これを要するに、あなたはご自分の肉声を出してきたということでしょうな。中にかすかに信濃の百姓の地声がまじっている。そこのところが、じつに面白い」
今週のあなたもまた、一茶ほどではないにせよ、どこかで変わりつつあることの予感や実感をつかんでいくかもしれません。
さそり座へのアドバイス:断層に出逢う
人間も大地と同じで、幾層にも重なった地層によってできており、歩き続けていれば突如としてはるか古代の地層の断面ががばりと露呈してくることがあります。
当然そこで、それまでとは何かが変わる。信州から10代半ばで家を追い出されるようにして江戸へ流れ着いた一茶にとって、自分の中に「百姓の地声」が眠っていたことは発見であり、変容であったの違いないでしょう。
先に引用した成美の台詞は以下のように締め括られます。
「うまく行けばほかに真似てのない、あなた独自の句境がひらける楽しみがある。しかし下手をすれば、俗に堕ちてそれだけで終るという恐れもある。わたくしはそのように見ました」
そういうことは、誰にでもあり得るのです。今週のさそり座の星回りを見ていると、一茶と成美のやり取りを思い出さずにはいられませんでした。
さそり座 今週のキーワード
肉声と地声