さそり座
重いふたを開ける
収容物の雄弁さ
今週のさそり座は、潮田登久子の『冷蔵庫』という写真集のごとし。あるいは、自身の腹のうちに収めているものを整理したり、並べ替えたりしていくような星回り。
ありふれた家庭の冷蔵庫の写真が57軒も収められたこの写真集では、見開き2ページの左側に扉の閉められた状態の冷蔵庫の写真が配され、右側には同じ冷蔵庫の扉があいた状態の写真が掲げられていました。
扉にシールやマグネットがたくさんついているものから、その上に神棚が置かれているものや箪笥と仲良く並んでいるものなど、その外見上の佇まいは家によって様々なのですが、その内部の詳細も想像以上にバラエティーに富んでいたのが印象的でした。
ほとんど空っぽで生活感が感じられないものもあるかと思えば、食材や惣菜などの入ったタッパが息苦しいほどに詰め込まれた冷蔵庫があったり。缶ビールばかりが並んでいる、いかにも若い一人暮らしですと言わんばかりのものもあれば、何種類もの薬の袋が置いてあるばかりのミョーな気配のするものがあったりする。
どこの家にもあるような冷蔵庫が、どのようなものを収容しているのかは、冷蔵庫がいかに配置され、家の中に溶け込んでいるのかという情報以上に、家族構成や職業から、家主の精神状態までじつに多くのことをこちらに教えてくれるように感じられたものでした。
同様に、8月13日に自分自身の星座であるさそり座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、外に向けて何をまとい、いかに振る舞うかよりも、どんなものを、いかに心のうちに収めているかで、自分らしさを示していくべし。
恐るべき饒舌
『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフにしろ、『地下室の手記』の「わたし」にしろ、ドストエフスキーの小説には、自己自身に対して異様に饒舌な人物がしばしば登場します。
彼らは世間から存在をまるきり否定されたり、自尊心を傷つけられるたびに、恐ろしいほどの言葉を費やして、見る自分(意識)と見られる自分(意識下)との対話を高速回転させ、自家中毒的に自意識をこじらせることで、一種の不吉なエネルギーを生み出していくのですが、なんだかみなが寝静まった真夏の夜にブーンと音を立てながら稼働している冷蔵庫のようではないでしょうか。
教育学者の齋藤孝はこうした過程を「圧縮地下室づくり」とも呼んでいます。すなわち、とらえがたい欲望などの身体知の世界である意識下の自分を、自分の存在感を高めるためのエネルギー源として積極的に話しかけ、そこから戻ってきた感触をまた言葉にしていくことで、納豆のような発酵した感じを自身でつくり出し、それを時おりこれという人にぶつけることで一種の“祝祭空間”を現出させるのです(『ドストエフスキーの人間力』)。
むろん、ぐーっと貯めこんだエネルギーを一気に放出させる訳ですから、うまくいけばそれは広義の意味でエンターテインメントにもなり得るかも知れませんが、多くの場合、それは人間関係に後戻りできない変容をもたらすでしょう。
今週のさそり座は、そうした稀有な祝祭体験を求めていこうとする傾向が強く現われてきやすいかもしれません。
さそり座の今週のキーワード
エネルギーの圧縮と放出