さそり座
海洋的つながり
板子一枚下は地獄かな
今週のさそり座は、『立泳ぎして友情を深うせり』(中尾寿美子)という句のごとし。あるいは、交友関係の量より質を追求していこうとするような星回り。
背泳ぎでも平泳ぎでも、ましてやクロールなんかしている時には、とても泳いでいる最中に会話などできませんが、たしかに立ち泳ぎであれば顔は水中から出続けているし、位置も近くに留まっていられるので、じっくり話すことも可能でしょう。
むしろ、誰が近くで聞いているか分からないような陸地の上より、かえってここでしか言えない秘密の打ち明け話などはしやすいでしょう。
ただ、掲句で友とともにいるのは、足の届かない水中であり、おそらくは海なのではないでしょうか。足はつねに動かし続けなければ沈んでしまいますし、どこまで深さがあるか分からない海中に漂っているのは、陸にいるのとは比べ物にならないほどの不安感がつきまといます。
しかし、そうした死や無常感を意識させられている時の方が、友情を深めるにはかえっていいのかも知れません。というより、もともと赤の他人同士である友人との交情が奇跡的に深まることがあるとすれば、それはそうした強い不安感と隣り合わせの状況で、ふだんは心の奥深くに秘めている思いを口に出したり、聞いてもらえる機会をもてた瞬間に他ならないのではないでしょうか。
8月5日にさそり座から数えて「交友」を意味する11番目のおとめ座に金星が入ってゆく今週のあなたもまた、安定した大地ではなく不安定な海での縁や結びつきをこそ大切にしていきたいところです。
金子みすゞの「鯨法会(くじらほうえ)」
金子みすゞの故郷、山口県長門市の対岸に横たわる青海島(おおみじま)の東端には向岸寺(こうがんじ)という、いまも春の終わりに鯨(くじら)の供養を行っている寺があり、鯨の位牌や千頭をこえる過去帳で知られていますが、鯨墓のうしろの地中には75体の鯨の胎児が埋葬されているのだそう。
仕留められた母鯨の胎内から取り出された胎児の「いのち」の在りようについて、おそらくみすゞはなまなましく想像を巡らせたのでしょう。次のような童謡を作っています。
鯨法会は春のくれ、海に飛魚採れるころ。
浜のお寺で鳴る鐘が、ゆれて水面をわたるとき、
村の漁夫(りょうし)が羽織着て、浜のお寺へいそぐとき、
沖で鯨の子がひとり、その鳴る鐘をききながら、
死んだ父さま、母さまを、こいし、こいしと泣いています。
海のおもてお、鐘の音は、海のどこまで、ひびくやら。
これは私たち人間の意識下に沈められている、他の生命を食い殺すことでしか生き永らえないという罪責感を浮き彫りにしたものであり、それを否定するのでも誤魔化すのでもなく、ただありのままに写しとっているように感じられます。そして、これもまた「質の交友」と言えるのではないでしょうか。
今週のさそり座もまた、自分をひとつの生命体として見立てたとき、そこにどんな縁や結びつきが見えてくるのか、おのずと問われていくことになるでしょう。
さそり座の今週のキーワード
52ヘルツの鯨