さそり座
魔術的に何かに引き込まれていくということ
猪の音
今週のさそり座は、『猪がきて空気を食べる春の峠』(金子兜太)という句のごとし。あるいは、神の荒ぶる息吹きに触発されていくような星回り。
この句に出てくる「猪」を、都会の人はついついディズニーのアニメに出てくるような愛くるしい見た目の生き物をイメージしてしまうかも知れません。しかし、山で遭遇する猪は明らかにそれとは一線を画するものです。
とにかくでかい!獣臭もすさまじい。目も野獣のそれ。なにより、特異なのはその息遣い。まるで深い怒りを押し殺したような「しゅー、しゅー」という低い音に、時おり混じる「がふっ、がふっ」と荒々しく息を吸い込む音。実際に耳にしたことがある人ならば、はるか古代から日本の山々を支配してきた凶暴な巨大生物であるということが、その息遣いだけで実感されてくるはず。おそらく、秩父の奥深い山あいの地で育った作者が詠んだ「猪」というのも、そうした巨大な荒神のようなものであったのでしょう。
一方で、掲句にはどこか気抜けしたようなところもあります。「春の峠」という、いかにも童話に出てきそうな状況設定が、どこかゆるんだ空気感を作りだしている。しかし、それでも決して油断してはいけません。
3月10日にさそり座から数えて「躍動」を意味する5番目のうお座で新月を迎えていくところから始まる今週のあなたもまた、全身の細胞が活性化していくような良い意味での緊張感と胸の高鳴りとを、自身のバイブスに持ちこんでいくべし。
自分という「めんこ」をひっくり返す感覚
今の子どもたちにはカードバトル用に考案されたカードがもっぱら人気ですが、かつては大小、丸や四角、さまざまなめんこ(カード)があって、それらをただ原始的に地面にたたきつけることで相手のめんこをひっくり返すという遊びに興じていたものでした。
そして、ああした遊びになぜあんなにも夢中になっていたのかは、大人になって占いの仕事を始め、タロットカードがめくられる瞬間を真剣に凝視するたくさんの人たちに接することで、少し分かってきたように思います。
あれは、カードのカタチや絵柄、表された内容が大事なのではなくて、むしろ伏せられているものを「ひっくり返す」という操作が持つ魔術的なパワーに魅了されていたのだと思います。例えば、子どもの頃に自分や家族の名前を逆さにして言ってみると、なんだか「自分らしさ」や「お母さんらしさ」が感じられなくなってしまって、怖くなってしまったことはないでしょうか。
これは物理的な上下と言葉の上下を同列に扱う未熟さゆえの感覚ではありますが、それだけでなく「ひっくり返す」ことでオモテからは見えていなかった意外な側面、本当らしいこととしてのウラが露わになり、すべてが変わってしまうということと根本的には通底している訳です。
今週のさそり座もまた、既存の自分、古くなりパワーの落ちてきた自分を、いかに「ひっくり返す」ことができるかということが問われていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
魔術的な破壊力に取りつかれていく