さそり座
縁の下の文脈をずらす
ボルヘスの問い
今週のさそり座は、『ドン・キホーテ』を書き直したピエールのごとし。あるいは、考古学的なアプローチにこそ未来を見出していこうとするような星回り。
架空の作品や百科事典を見事なまでにでっち上げることで知られている大作家ボルヘスは、20世紀の初めに“ドン・キホーテを書こうとするフランス人作家”を主人公とした『「ドン・キホーテ」の著者、ピエール・メナール』という小説を書いています。
もちろん『ドン・キホーテ』は17世紀にスペイン人のセルバンテスが母国語でのびのびと書いたものですが、この小説の語り手は20世紀に生きるピエールが外国語の古語を無理に使って書けば、同じテキストであってもそこに宿る意味合いは異なるだろうと言うのです。
ここで描かれているのは、あらゆる手法やテーマがすでに使い尽くされてしまった現代において、オリジナリティを求めることの困難と無意味さです。
ボルヘスは「文学におけるオリジナリティとは何か、そもそもオリジナリティは存在するのか」という問いを自身の作品の多くに内包させていましたが、これは彼自身がスペイン語を母語とするアルゼンチン人で、育った家庭では英語とスペイン語という異なる2つの言語が同じ程度に使われていたということも大きく関係しているように思います。
そして、こうしたオリジナリティや価値をめぐる問いは、まさに今のあなたにとっても乗り越えなければならない壁として迫ってきているのかもしれません。
2月24日にさそり座から数えて「中長期的な展望」を意味する11番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、ボルヘスほど見事な仕方ではなくても、まったく新たな意味や概念を作りだすのではなく、むしろ既存の文脈をずらすことで、これまで当たり前のように捉えていた景色の見え方を変えていくことができるかが問われていくでしょう。
ずっとそこにあった光景
少なくとも今週は、なにか未知の領域から未来の恋人や新規の題材を探そうとするようなモードとは対極のベクトルに向かっていくでしょう。
むしろごくふつうの物事や、ずっと身近にあった光景のような、ありふれた日常の中にこそ、インスピレーションや情熱の源泉は潜んでいるのだということを意識していくことになりそうです。
そもそももっともらしい題材を、美しい言葉や華やかなデザインで飾り立てるのは、決してさそり座の真骨頂ではないはず。
自分の暮らしを支えてくれている存在のささやかな貢献に目を向けて、いかにその“縁の下の力持ち”を助けていけるかということを、自分なりのやり方で模索していくこと。それこそが、今週のあなたに与えられた課題なのだと言えます。
さそり座の今週のキーワード
時代の空気に流されず、ゆっくりとでも普遍的な価値を問うていくこと