さそり座
凄まじいものに向きあう
言葉にならない信じがたさ
今週のさそり座は、『朝虹(あさにじ)は伊吹に凄し五月晴』(堀麦水)という句のごとし。あるいは、こちらの居住まいを正してくれるものと向きあっていくような星回り。
梅雨の雨を「五月雨(さみだれ)」と言いますが、「五月晴れ」もまた本来は5月のさわやかに晴れた日のことではなく、炎暑の訪れを予感させる梅雨の最中のたまたまの晴れのこと。
そして、そんな“たまたま”のタイミングをよく表しているのが「朝虹」です。虹というのは太陽を背にして雨に向きあった時に目にすることのできる現象で、朝虹の場合、太陽は東から出ていて雨には西にある訳です。天気は西から東に変わっていきますから、今はこんなに晴れているのに、これから天気はどんどん下り坂になっていく。
掲句は、その信じがたさ、この世の不思議さを、遠くに見える「伊吹山」への畏怖にかけているのでしょう。滋賀にある日本百名山の一つであり、古来より神が宿る山として信仰の対象になってきたこの霊峰は、ヤマトタケルが東征の帰途に伊吹山の神を倒そうとして返り討ちにあった神話でも知られており、タイミングの妙もあいまって、圧倒的な自然を前にした人間や文明の力のはかなさやちっぽけさを思い起こさせてくれます。
6月21日にさそり座から数えて「神殿」を意味する9番目の星座で夏至(太陽かに座入り)を迎えていく今週のあなたもまた、自然であれ師であれ書物であれ、畏怖の念を覚えるものと向きあえることの僥倖(ぎょうこう)を噛みしめていくべし。
魂の原始性を呼び覚ます
ここで思い出されるのは、思想家の井筒俊彦が『ロシア的人間』の中で、かの地に棲む人々を称して用いた「永遠の原始人」という言葉です。
行けども行けども際涯を見ぬ南スラヴの草原にウラルおろしが吹きすさんでいるように、ロシア人の魂の中には常に原初の情熱の嵐が吹きすさぶ。大自然のエレメンタールな働きが矛盾に満ちているように、ロシア人の胸には、互いに矛盾する無数の極限的思想や、無数の限界的感情が渦巻いている。知性を誇りとする近代の西欧的文化人はその前に立って茫然自失してしまう。(…)この恐るべき矛盾錯綜はディオニュソス的性格のものである。だから自分で本当にディオニュソスの不気味な叫び声を心の耳に聴いたことのある人だけにわかるのである。
だからロシア人というのはあれだけ酒を飲むのかも知れませんね。しかし、おそらくこうしたロシア的な精神世界というのは、現代日本人にとってことさら「凄まじ」いものとして、ほとんど得体の知れない怪物のように映るかも知れません。
とはいえ、今週のさそり座にとって、常識的な理性の枠内に抑えこむことが不可能なものとしての自然現象や生理現象は、いつも以上に身近なものと感じられてくるはず。願わくば、それらを圧殺することなく、静かに受け止めていくだけの呼吸の深さを確保していきたいところです。
さそり座の今週のキーワード
ディオニュソスの不気味な叫び声を心の耳に聴く