さそり座
ポーカーフェイスで
スーイスイと
今週のさそり座は、『激流の一隅にゐる水馬(あめんぼう)』(橋本鶏二)という句のごとし。あるいは、水面下で行っていくべきことを見定めていこうとするような星回り。
「水馬(あめんぼう)」は6本の細長い足で水面を滑る虫で、夏になると池や川などあちこちの水たまりで見かけることができますが、掲句は雨の日の側溝や川などにいるアメンボを捉えた一句なのでしょう。
雨が降れば、ふだんはちょろちょろとしか水が流れていないような側溝や川でも、途端に「激流」となります。ところが、ふと目にしたアメンボはそんな環境の変化なんかどこ吹く風とでも言うかのように、涼しい顔でスーイスイといつもと変わらず浮かんでいる。
もちろん、実際には同じところに留まるために、それなりの努力はしているはずで、必死に走ってやっと元の位置にいられているのかも知れません。
そして、20世紀という激動の時代とともに生きてきた作者は、おそらくそこにいつどんな時も倦(あぐ)むことなく俳句を詠み続けてきた自分自身の姿を重ねたのではないでしょうか。
6月11日にさそり座から数えて「反復作業」を意味する3番目のやぎ座へ「死と再生」を司る冥王星が戻っていく今週のあなたもまた、どんなことなら自分もアメンボのごとく、いついかなる時もやり続けることができるのか、改めて自問してみるといいでしょう。
なんとかやっていく技術
フランスの社会理論家であるミシェル・ド・セルトーは、例えばパリやルベーに住むマグレブ人(北アフリカ北西部に位置するアラブ諸国の出身者)たちが、低家賃住宅の構造やフランス語の構造が押しつけてくるシステムのなかに故郷伝来の独特の話し方や住み方をしのびこませるやり方を「隠れ作業」とか「なんとかやっていく術」と呼んでいます。
かれらは、二重にかさねあわせたその組み合わせによって、場所や言語を強制してくる秩序をいろいろなふうに使用するひとつのゲーム空間を創りだす。否応なくそこで生きてゆかねばならず、しかも一定の掟を押しつけてくる場から出てゆくのではなく、その場に複数性をしつらえ、創造性をしつらえるのだ。二つのもののあいだで生きる術を駆使して、そこから思いがけない効用をひきだすのである。(『日常的実践のポイエティーク』)
セルトーはまたこうした「しつらえ」方について、ピアノやギターの「即興」のように、「そこにはいろいろな情況のタイプに応じて行動を変えるゲームのロジックが存在して」おり、例えば『易経』や『孫氏』などの中国の古典にはそのやり方が詳しく解き明かされているのだとも指摘していますが、私たちは何もそんな遥か彼方にモデルを探しに行かずとも、側溝のアメンボにこそ見習うべきではないでしょうか。
今週のさそり座もまた、「一定の掟を押しつけてくる場から出てゆくのではなく」、与えられた場や情況の中で、いかに「やりかた」を少しずつ変えていけるか、試してみるといいでしょう。
さそり座の今週のキーワード
隠れ作業/なんとかやっていく術