さそり座
さりげなく、とてつもない
病人の生態
今週のさそり座は、『巻貝の渦を数へて春の風邪』(大木あまり)という句のごとし。あるいは、自分にどこまでも正直になっていこうとするような星回り。
ふと手に取った「巻貝」。その渦を数えるという仕草の意味するところは、手持ち無沙汰ではあるけれど、仕事をしたりどこかへ出掛けていくほどの元気はないということ。
すなわち、深刻な病状ではなく、何をするのでもない風邪の日の気怠さをさりげなく表出している。人間は何もするなと言われても、必ず何かせずにはいられない生きものであり、さりとて意義のあることを全力で行えるほどつねに体調や気力が充実している訳ではない。
むしろ、ここでは「巻貝」という自然のうつくしい造形物の力を借りることで、呼吸をととのえ、少しでも英気を養っているのでしょう。ただボーっと見るにしても、見ていて気力が削がれるようなものより、なんとなく元気になってくるものを見たくなるのも人のサガ。その意味で病人というのは至極正直にできているのである。
4月13日にさそり座から数えて「遊び」を意味する3番目のやぎ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけ呼吸や気力を養っていくのにちょうどよいものに手を伸ばしていくべし。
日野啓三『雲海の裂け目』
例えば、小説家の日野啓三は癌を患ったのち、病後はじめての旅行へ出かけたその帰り道に、沖縄から東京へ向かう飛行機の上で、次のような光景を見たのだそうです。
窓から外を眺め渡しているつもりが、次第に自分の意識の奥を覗き込んでいる気分になる。雲間から輝き出る光は、いまや朱色より強烈なオレンジ色に近い。赤や朱色よりエネルギーの高い色だ。私の意識の雲海の奥には、これほどのエネルギーが秘められているのだ、とほとんど信じかける。(中略)
荒涼と豪奢で、神秘的で自然で、生き生きと寂莫で、畏怖と恍惚の想いを区別できない
ここで作者が見たこの世ならぬ光景は、人間である作者の存在そのもの、またはそれについての意識に直接繋がっていたのでしょう。それは根源的でありつつも、どこかそれを突き放した目線で観察できるがゆえに、二律背反的な感情を作者にもたらしたのです。作者は先の引用箇所に先立って「夢の中でさえこの質の色は見たことがない」と書いていました。
今週のさそり座もまた、作者の場合ほど劇的なものではないとしても、「意識の雲海の奥」に秘められた根源的エネルギーを垣間見ていくことになるかもしれません。
さそり座の今週のキーワード
二律背反的な感情